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井上ひさし死して、「日本の良心」はどこへ行く

 分厚い丸眼鏡・出っ歯がトレードマークである、作家の井上ひさしが亡くなった。75歳だった。老若男女日本人なら誰でも1度は名前と作品を見たり聞いたりしたことがある井上ひさし。彼は戦後民主主義を代表する平和主義者として知られ、人気作家でありながら国や企業の利権に牙を向く強い姿勢を貫いた。また、世間を騒がせる人間くさく過酷な一面も。数々の作品に社会への強い「怒り」を込めた作家・井上ひさし死して、「日本の良心」はどこへ行くのだろうか。

 20年くらい前、元妻の西舘好子(評論家)が、井上による家庭内暴力(DV)をTVや週刊誌で暴露して離婚、芸能ニュースを騒がせたことがある。西舘さんもそうとう強そうな女性たが、作品が書けないと奥さんに八つ当たりしてボコるなんて井上は「怖い作家」というイメージがその後ついて回った。しかし、そんなイメージを抱いていた記者にも、彼の偉大さを見直すきっかけとなった、「蟹工船」ブームが起こった。

 政治や社会問題を扱うノースポンサーの雑誌『週刊金曜日』の創刊に関わり編集委員を務めていた井上ひさしは、米問題、平和運動、労働問題まで、いろいろな事柄について執筆。講演もしていた。その発想はとにかく庶民派。時には、経団連の会長や国のやり方に牙をむく事さえあった。「蟹工船」の作者・小林多喜二への思い入れも強く、ある意味、雨宮処凛をはじめとする若い運動家や不遇な労働者たちの強い味方でもあった。一度、講演会での井上を見たが、穏やかな語り口ながらも強い意志表示と、宇宙の様に広い知識、まったくもって人間的な魅力に驚かされた。この先これほどの作家は、もう出ないであろうとも感じた。

 そんなカタイ活動のかたわら、石原さとみが昨年、主演した舞台『組曲 虐殺』や、宮沢りえ主演の平和をしみじみと願った映画『父と暮せば』など、たくさんの戯曲や脚本も遺している。ユーモラスで生き生きとした人間の素晴らしさを描くのは天下一品の天才でもあったのだ。主催した劇団「こまつ座」の公演の他、井上作品は、さまざまな場所で上演されている。この夏、新宿花園神社境内特設ステージで上演される『椿版 天保十ニ年のシェイクスピア』(椿組)もその代表的な作品のひとつ。野外テントで行われる「土の舞台」「祭としての演劇」が、土(農業)の行く末を考え、日本の政(まつりごと)を思考し続けた井上の熱い意思を引き継いでいる。<コダイユキエ>

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