『長州力 最後の告白』 長州力、聞き手・水道橋博士 宝島社 1500円(本体価格)
★沈黙の“革命戦士”がすべてを語る
本書はまず編集のセンスが光る。「聞き手・水道橋博士」とはあるが、格闘技愛あふれる博士のプロレス史と自分史とを重ね合わせた解説的地語りと、長州のコメントを交互にした構成がまるで活字で読むドキュメント番組のような雰囲気を醸し出しお見事。
長州小力のネタの影響で「キレてないですよ」(正しくは「キレちゃいないよ」)ばかりがクローズアップされがちだが、筆者など世代的に長州語録といえば反射的に「俺はお前の噛ませ犬じゃない」「あのヤローがくたばって墓建ったら、俺はクソぶっかけてやる」、そしてやはり「俺の一生にも、一度くらい幸せな日があってもいいだろう」。数々の名言が耳に刻み込まれたクチだが、もちろん本書中の随所でも、その独特のフレーズはラリアット同様の切れ味を炸裂させて(「インパクトの粉」など、昔より風味を増した印象)まこと興が尽きない。
かつてジャンボ鶴田が全日本プロレスへの入団を“就職”と表現したのと同様に、憧れて入ったのではなく、あくまで「メシを食うために」新日本へ、とサラリと語る姿にむしろ限りなく「プロ」を感じてしまう。下積み時代に本気でやったら自分の方が強いのに、と歯がゆい思いでリングを見上げていた時、アントニオ猪木の試合ぶりを見て「強さを出す相手は(対戦相手のレスラーでなく)観客だ」と気付くあたり、名優の芸談を聴くようだ。
テレビ好きのお笑いファンを自認し敬意を持って芸人を論じる長州と、プロレスへの絶大なリスペクトでそれに応える博士の応酬がすばらしい。馬場・猪木がビッグ3(たけし・タモリ・さんま)なら早逝した橋本真也はダウンタウンと例える長州。では、自身を誰になぞらえるのか、無いものねだりでも尋ねたい。(敬称略)_(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
東京の源となった「江戸」は100万人が住んでいた都市だったといわれる。実際に定住していた大衆は50万人半ば(1853年頃)だったらしいが、その他にも参勤交代などで絶えず武士が出入りしていたため、実数は確定できていない。
いずれにせよ、徳川幕府初代将軍の家康が江戸城に入城した頃は関東の辺境にすぎず、人口も徳川家臣団を中心の約5万人だった。それが約250年の間に飛躍的に増えたのだから、治安・衣食住環境・政治機能に至るまで整備された、世界でも類を見ない巨大都市だった。
そんな大都市で暮らす庶民の生活にスポットを当てたのが『サライの江戸 CGで甦る江戸庶民の暮らし』(小学館/1700円+税)。長屋の構造とそこに住む人々や、湯屋(銭湯、なんと混浴だった!)の内部をCGで再現したり、庶民が従事していた「棒手振り(魚や野菜などの商品を天秤棒にぶら下げて売り歩く商人)」の稼ぎ、寿司・うなぎ・蕎麦・天ぷらの“江戸四大食”の歴史と特徴など、当時の暮らしが生き生きと甦る。
また、両国橋の花火大会、江戸歌舞伎や相撲、落語の隆盛など、現代の東京に連綿と受け継がれた娯楽の紹介も充実している。
「江戸っ子は宵越しの銭はもたない」などという。それだけ貧しかったワケだが、毎日の暮らしは充実していたことがうかがわれ、もしかしたら現代人より心豊かだったかもしれない…そんなことまで想像させる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)