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本好きリビドー(32)

◎快楽の1冊
『ジョニー・ザ・ラビット』東山彰良 双葉文庫 600円(本体価格)

 先週に引き続き大藪春彦賞受賞作家の小説を取り上げたい。東山彰良『ジョニー・ザ・ラビット』だ。
 先月10月、東山作品の新刊『キッド・ザ・ラビットナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』が双葉社から出た。この長めのタイトルの小説はウサギが主人公である。彼の活躍はユーモラスと言うよりスラップスティックであり、作品全体はホラー・テイストの強い冒険小説という肌触りだ。
 これはこれで面白いのだけれど、純然たる単独作品ではない。『ジョニー・ザ・ラビット』の続篇なのだ。というわけでまずは一作目を読むことをお勧めしたいので、こちらを主に取り上げることにした次第である。
 東山彰良の魅力と言えばSF仕立て、あるいはそれに近い架空世界とクライム・エンターテインメントを合体させる手腕、と言う人は多いかもしれない。犯罪者同士のユーモラスであまり品のない口調の会話に深い哲学的思想を盛り込む技も得意としている。2003年のデビュー作『逃亡作法 TUED ON THE RUN』がすでにこの両者を兼ね備えていた。その後'09年に大藪春彦賞を得た『路傍』は後者の方を強調しているが、'13年の大作『ブラックライダー』ではSF仕立ても哲学的思想もかなり壮大なものになった。
 さて本書は'08年に双葉社から出た。現在は双葉文庫で読める。主人公の語り手〈俺〉=ジョニー・ラビットは名前からわかる通りウサギである。かつてはマフィアのドンに飼われていたが、その飼い主は抗争の中で殺された。今は私立探偵業をやっている。あくまでウサギの世界においてであるが。こういう設定自体ずいぶんと荒唐無稽だが、ストーリー展開もあらゆる方向へ飛躍していく。東山彰良らしい哲学的会話が満載のハードボイルド私立探偵小説だ。この一作目と続篇を併せて読みたい。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 抱腹絶倒、奇想天外な風俗業界ノンフィクション。
 『なぜ「地雷専門店」は成功したのか?』(東邦出版/1200円+税)は“デブ・ブス・ババア”の風俗嬢ばかりをそろえた待ち合わせ型デリヘル『鶯谷デッドボール』の経営者である通称“総監督”と、風俗ライターのハラ・ショー氏の共著だ。
 女性の派遣を依頼すると、トンデモない危険球が飛んでくるというのが店名の由来であり、書籍タイトルの「地雷」とは、在籍する風俗嬢たちのレベルの低さを指す。
 そんな風俗店が、開店5周年を迎えた。なぜ、生き馬の目を抜くような過当競争の社会で生き残れたのか−−その謎解きを通じ、サービス業の経営戦略を浮き彫りにするという本だ。
 価格は格安で、「この値段なら悪くないと客に思わせる」「癒されない美人より、癒してくれるブス」「風俗だからこそ、最後は情で客が来る」など、経営者・総監督の経営理念はなるほど…と、うなずくモノばかり。
 また“デブ・ブス・ババア”が採用基準だから、どんな女でも即採用という人材活用法。『鶯谷デッドボール』は女性の出勤管理も徹底した放任主義らしいが、風俗嬢の無断欠勤や退職(という名の行方不明)が起きても、すぐに人材を補充でき、人手不足に陥ることもないという。
 ブスでは客がこないし店もつぶれるという、従来のデメリットを逆手にとった、たくましいまでの発想が爽快な1冊。ビジネス書のコーナーで平積みされるべき本だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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