A:風邪のことを「感冒」ともいいますが、これはもともと東洋医学の専門用語で、「外界から何かが体の抵抗線を突破して、体内に入り込んだ結果起こった病気」。その何かとは、冬であれば寒さ、夏であれば熱さ(暑さ)などの自然現象であると考えられており、これらを「邪」といいます。ですから、東洋医学では、熱中症や花粉症なども感冒の一種なのです。
風邪のひき始めには、外界からの邪は、体の表面や体の浅いところにあり、時間とともに体の奥へ入っていきます。よく肺に入り気管支炎となり、咳や痰が出ることは、ご存じでしょう。これは、邪が体の表面や浅いところから、やがて深いところへ入っていったことの表れなのです。ご質問の方も、ご自分で推測されていますが、おそらく気管支炎になったのでしょう。
●漢方薬の「清肺湯」がオススメ
通常、冬の風邪は、悪寒で始まりますが、時間とともに悪寒と熱感が交互に起こるようになり(往来寒熱)、やがて熱感だけになります。つまり、体は、寒証から熱証に変化していくわけです。ご質問の方も、咳と痰があり、悪寒がなく、熱感だけあるそうですから、寒証から熱証へと経過をたどっていったのでしょう。
そして、熱の場所は肺であり、東洋医学の治療では、この肺の熱を冷ます漢方薬を処方します。
その代表的なものが「清肺湯」です。「清」とは清らかな澄んだ冷たい水のことで、清肺湯とは、肺の熱を冷ます働きのある漢方薬という意味になります。この漢方薬は、熱証に非常によく効き、証が合えば、3〜5日程度服用を続けると症状が改善してきます。
このほか、肺に熱がこもった気管支炎に用いられる漢方薬には、「麻杏甘石湯」や「麦門冬湯」「紫陥湯」「柴朴湯」などがあります。
ご質問の方は、気管支炎から肺炎に進むおそれがないとはいえません。早めに治療するようお薦めします。
三浦於菟氏(吉祥寺東方医院院長)
熱心な東洋医学の名医として著名。東邦大学医学部卒。国立東静病院内科勤務を経て、中国・南京中医学院、台湾・中国医薬学院に留学。東邦大学医学部東洋医学科教授を経て、同大学客員教授。著書『東洋医学を知っていますか』など多数。