お酒を飲んだ時、アルコールを分解する以外にも、肝臓は脳のエネルギー源であるブドウ糖をグリコーゲンとして備蓄したり、食事から摂取した栄養分を代謝し、出血を止めるためのタンパク質の合成、胆汁の生成、身体に有害な物質を分解・無毒にするまで活発に仕事をしている“スーパー臓器”で、最低でも500以上の働きをするとされているのだ。それだけに、頑強で丈夫、人体で最も大きな臓器で、たとえ疾患で半分以上を失ったとしても必要な仕事をこなす力があり、元の大きさに復元することも可能とされる。
しかし、そうは言っても働き過ぎによって傷んで壊れることもある。
昭和大学病院消化器内科担当医はこう説明する。
「ご存知の通り肝臓は“沈黙の臓器”ともいわれ、酷く傷んでいても痛みを感じることはほとんどない。病気になっても自覚症状が出にくい臓器ということです。ですから、何となく具合が悪いな、と感じた頃は肝炎などで大分悪くなっている可能性があるということ。症状が進まないように、まずは早期発見・治療が大事になってきます」
中でも問題なのが、酒を飲まない下戸なのに、肝疾患を招くという「非アルコール性脂肪性肝炎」(NASH)だ。この病気は、最悪の場合、肝硬変から肝臓がんになる可能性があり、国内では100万人から200万人の患者がいるとされる。また、肝臓がんの原因には、B型肝炎が6割、C型肝炎が6割。残りの3割弱の中にNASHが含まれていると推測されるという。
前出の担当医師によると、NASHの特徴は、アルコールをほとんど飲まないのに、肝臓がアルコール性肝炎に似た状態になることだ。
「この病気の原因は、ズバリ“栄養過多”。つまり、メタボ体形の延長線上にある病気と言っていいでしょう。ただし、太っているから病気になるわけではなく、痩せている人でもなる。BMI(体重キロ÷身長メートル×身長メートル)の数値が25超なら要注意。30代以上の男性に圧倒的に多いが、50代以上の女性も多い。また、肝臓の数値を表すGOT、GPTがそれぞれ50を超え、γ-GTPが100超になると脂肪肝が進行している可能性があります」
こんな例がある。東京在住の会社員、小林芳光さん(仮名・45歳)は2年前、近くの内科医院で糖尿病と診断され、血糖値を下げる薬を飲み始めた。糖尿病の症状は安定していたが、'12年に定期検診で肝臓の異常を指摘された。そして翌年6月の検診でさらに数値が悪くなったため、肝臓病の専門外来がある大学病院を受診した。
飲酒の習慣がない小林さんは、肝臓が悪くなる理由が思い当たらず、医師に糖尿病の薬が原因ではないかと尋ねた。しかし血液検査とエコー検査の結果、小林さんは脂肪肝の一つ、NASHと診断された。この「脂肪肝」とは、肝臓の細胞の5%以上に“脂肪のかたまり”が沈着した状態を指すという。