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本好きリビドー(24)

◎快楽の1冊
『夜よ鼠たちのために』 連城三紀彦 宝島社文庫 730円(本体価格)

 2013年10月、連城三紀彦が亡くなった。65歳だった。いわゆるミステリー・マニアから高く評価されると同時に、さほどマニアを自認していないファンも多かった作家である。そのような人気は映画やテレビドラマなど映像化作品による話題性や1984年の『恋文』直木賞受賞がもたらしたところもあったかもしれないけれど、元来揺るぎない両面的な作風を確立していなければ、この独特の人気は長続きしないだろう。
 巧みに作中にちりばめられたデータが物語の終盤で集結し、価値観が反転するようなサプライズが起きる、というのがミステリーならではの醍醐味と言えようが、この作家はサプライズの達人であった。同時に叙情味溢れる文章で人間の心のひだへ迫っていく。その手腕がサスペンスフルなエンターテインメント性を生み出すこともあったし、恋愛小説に結実する場合もあった。短篇の名手でもあった。先に挙げた『恋文』は短篇集であり、例えば映画化された「私の叔父さん」のようにミステリーとしても恋愛小説としても堪能できる作品が多く収められている。
 さて本書『夜よ鼠たちのために』は今年9月に出た復刊本である。ちょっと複雑な経緯をたどった本で、'80年代に出た2冊の短篇集からセレクトした作品を集め'90年代に刊行された本を復刊したのだ。本書全体のテーマはおそらくイメージの転覆であろう。表題作は愛する人を死なせた者に対する復讐譚、「過去からの声」は若者からかつての先輩に対する愛情溢れる手紙、「ベイ・シティに死す」はヤクザ小説、とそれぞれ明確なカラーを打ち出しており、であればこういう展開になるであろう、という予測を読者は抱くはずだ。それをことごとく覆す。実験小説短篇集と言ってもいい。しかし、それだけでは終わらない。切なく哀しい、連城三紀彦らしい作品集だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 昭和6年に刊行されたエロ関係書籍が、中央公論新社の中公文庫によって復刊している。『日本歓楽郷案内』(定価880円+税)だ。
 著者の酒井潔氏は明治生まれの作家・翻訳家。昭和初期の“エロ・グロ・ナンセンス”の時代を詳細にルポした人らしい。2012年に国立国会図書館が公開したデジタルアーカイブ『エロエロ草紙』の著者でもあり、これが無料配信実験のダウンロード数1位になったことで、作品に再び注目が集まっているという。
 内容は、関東大震災からの復興過程にある首都・東京を賑わせた風俗の実態。銀座の“ステッキ・ガール”なる女性たちが登場する。カネさえ払えば恋人のように寄り添い、銀ブラの相手をしてくれる女のことで、アキバで流行しているメイドやJKとのお散歩デートの先駆といっていい。
 「魔窟街」と呼ばれた亀戸の売春エリアなども、当時のモノクロ写真付きで紹介されている他、さらにディープなネタになると、空き地の土管に男を招き入れる女など−−コレなどは現在なら、ワーキングプア層の女性がわずかな金額で春を売る“コロッケ売春”といったところだろう。
 舞台は次いで、横浜・大阪・神戸へと移り、飛田新地のゴージャスな洋式ラブホや、港町・三宮に実在したロシア人娼館の記事も掲載されている。
 全てが、平成の現代ニッポンと、何ら変わらない。日本の性風俗とは、規制の網をかいくぐり連綿と受け継がれてきた、たくましい産業なのだなと思わずにいられない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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