1月14日放送のテレビ東京『開運!なんでも鑑定団』に、とんでもない人が登場した。先祖伝来のお宝を売って、徳川の埋蔵金を発掘する費用に回すというのだ。しかも、その費用が36億円も掛かるというので、ビックリ仰天した。
鑑定に出したお宝は、大正時代の有名な画家が描いたという鳥瞰図(上写真)で、本人の評価額は200万円だったが、結果はニセモノで、評価はたったの2万円。依頼人は大恥をかいたわけだが、そのことはさておき、人の善さそうな顔をしたそのオジサンが気の毒に思えてならない。
まず、発掘に36億円も掛かるというのがべらぼうな話で、「特殊な方法で掘るので」と説明していたが、そんなに掛かるはずがない。いや、掛けようと思えば掛けられるかもしれないが、埋蔵金の発掘であれば必要ないということだ。聞けば100メートル以上掘るという。ますますあり得ない。一体どうやって掘って隠したというのか。
埋蔵金は何らかの目的をもって一時的に隠したものである。いざというときには速やかに掘り出せるようになっているはず。回収に何年も要するようでは意味がない。これまでに見つかった埋蔵金を例にとれば、時価10億近い日本最大の『鹿嶋清兵衛の埋蔵金』が最も深いところから見つかったもので、約1.5メートルだった。たいていのものは50センチ内外で出てくる。
またオジサンが言うには、徳川の埋蔵金があるのは山梨県の小栗上野介の妾宅の近くだという。「またか!」筆者は14年前の“事件”を思い出した。
忘れもしない、2000年1月17日のこと。朝から我が家の電話は鳴りっぱなしだった。かけてくるのはテレビ局、新聞社、出版社。山梨県南巨摩郡増穂町(現在の富士川町)で小判が発見され、それは徳川の埋蔵金の一部だというのだが、どうも怪しいので意見を聞かせてくれというのだ。
実はこのときも筆者は「またか!」と思った。その10年ほど前にも、同じところを数千万円かけて掘った人がいて、現場を見に行ったことがあったからだ。期待して行ったわけではない。会ったら「お止めなさい」と言おうと思ったのだが、とうとう会えなかった。
まず、我が家に押し掛けてきたのは民放4社。門の前にはテレビカメラの列ができ、30分交代で室内でコメントを取っていった。取り終わったテープはバイクが運んでいく。夕方のニュースに間に合わせるためだ。
テレビ朝日は、昼ごろ現地で“発見者”の記者会見があるので、まずはその映像を見てくれと言う。また、翌朝のワイドショーへの生出演も依頼された。フジテレビからも生出演の話があったが、同じ時間帯なので断るしかない。
録画している最中にも次から次に電話がかかってきて、中断しなければならないありさま。このときは、自分が日本中で一番忙しいのではないかと思ったほどだ。
やがてテレビ朝日からテープが届き、再生してみると、思った通りの顔が現れた。徳川幕府最後の勘定奉行で、御用金埋蔵の実行者と伝えられる小栗上野介忠順の妾腹の子孫を自称するK氏だ。30年近く前に現地で一度会ったことがあるが、さすがに白髪が増え、老いは隠せない。会見では、忠順が書き残した秘文書の通りに埋蔵金の一部が見つかったので、これから本格的に発掘を行うつもりだと発言していた。
筆者のメディアに対する答えは決まっていた。ただ、「これは詐欺です」とか「金集めのためのパフォーマンスです」などと、あからさまに言えば語弊があるので、やんわりした表現で「あり得ない」話であることを説明した。集約すれば次のようなことになる。
◆そもそも、徳川幕府の御用金があの場所に隠されたという根拠はゼロに等しい。
◆主役のK氏が小栗上野介の子孫であるという話は信じられない。
◆地下70メートル以下のところ(言い伝えでは90メートル)に埋めるはずがない。
◆小判1枚と中国の刀幣とのセット(右下写真)というのもおかしいし、無傷で出土するのはあまりにも不自然。
それから約1週間、筆者はメディアの相手をし続けたが、たいていは説明の内容を納得して聞いてくれていた。会見の内容があまりにもお粗末で荒唐無稽だったから、当然と言えば当然だが、心配なことがあったので、10年前の発掘に直接関わった人物に連絡を取り、裏で不穏な動きがないか調べてもらった。すると案の定、埋蔵金と聞けばすぐ顔を突っ込んで、気前よくカネを出すO氏のところに、さる筋から山梨の一件に3000万円出資しないかという話が持ちかけられていたのだ。(続く)
トレジャーハンター・八重野充弘
(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。