『コルトM1851残月』(月村了衛/講談社 1680円)
月村了衛は脚本家としてキャリアを積んだ後、小説家デビューした人である。最初の長篇『機龍警察』が刊行されたのは2010年で、すでにこの段階から風格を醸し出していた。おそらく多くのテレビアニメを手掛けている間に磨かれた見せ方の技術、視聴者の心をつかむエンターテインメント作法が小説でも生かされたのだろう。近未来を舞台にして高度な兵器を駆使する犯罪者と警察との戦いを描いており、つまりはSFと警察小説との合体を成し遂げたのだった。
合体なるものは、月村了衛が得意とする発想なのかもしれない。本書『コルトM1851残月』は明らかに時代小説なのだけれど、主人公・郎次が常に携帯する武器はコルトのリボルバー拳銃だ。物語は嘉永6年=1853年から始まる。郎次は廻船問屋の番頭という表の顔を持ちつつ、札差の大物・儀平の配下として殺しを行う男だ。残月という別の通り名もある。彼はダーティーな仕事をこなしながら商人の世界で伸し上がっていこうとするが、計画の読み間違えから窮地に陥ることになる…。
拳銃といういわば現代もので定番の武器と、時代小説ならではの刀剣がぶつかり合うアクション・シーンがとにかく凄まじい。近未来を舞台にした警察小説と同様に、現代を江戸時代に絡ませるという発想が存分に発揮された傑作エンターテインメントだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『ヒンシュクの達人』(ビートたけし/小学館新書・735円)
政治家やタレント、ネットでつぶやく一般人に至るまで、世間は不用意な失言で顰蹙を買うヤツばかり。その点、この男はひと味違う。悪口・暴言も言い方ひとつで武器になる−−。
天才・ビートたけしが語る「顰蹙の買い方」の極意。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ベースボール・マガジン社が発行する『近代柔道』(860円)は、タイトル通り柔道の専門誌。創刊は1979年というから、日本が不参加だったモスクワ五輪の前年だ。当時の柔道界スターは、あの山下泰裕である。
時代は変わり、最新号の表紙は女子52キロ級の中村美里。ロンドン五輪のヒロインだった松本薫(57キロ級)の記事と併せ、先ごろの講道館杯で優勝した選手をメーンに取り上げている。
また、現在の全日本男子監督・井上康生の連載なども掲載。名立たる選手・関係者が誌面に登場するだけに、身近に感じることのできる雑誌だ。
柔道はオリンピックの年だけ、にわかに脚光を浴びるきらいがなくもない。注目されるのは4年に1度。だが、前述の講道館杯をはじめ国際大会のグランドスラムなど、重要な大会は数多く開催されている。地道な発行を続けるこうした雑誌が、日本柔道の活動を支えているとあらためて思う。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意