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本好きオヤジの幸せ本棚(84)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『作家的時評集2008-2013』(高村薫/毎日新聞社 1890円)

 別格、という形容が誠にふさわしい作家の一人に高村薫がいる。1993年に刊行して直木賞を得た『マークスの山』で、その重厚で緻密な作風は日本中に知れ渡った。さらに'97年の『レディ・ジョーカー』も大いに話題を集めた。パーソナルな人間個々、人の内面へ肉迫する洞察力と、広く社会全般がはらむ問題を透視する哲学の姿勢に畏怖の念を抱いた読者は少なくないだろう。単純にミステリーと純文学との融合、と言うのもはばかられる、いわばドストエフスキー的世界観への接近を成し遂げたのだ。
 同時にこの作家は新聞等での時評の達人としても高い評価を受けている。すでに2007年『作家的時評集2000-2007』を出しており、本書はその続篇ということになる。この6年の間に発表してきたものを一堂に集めた。総じて取り上げているのは政治の問題だ。小説における作風同様、起きた出来事一つ一つを緻密に拾い集め、その根底にある原因に迫っていく強い意志がみなぎっている。未納問題、リーマン・ショック、民主党政権誕生、自民党復権…読み進めているうちに、日本全体が抱えている窒息状態が一向に解決していないと実感せざるを得ないが、著者は生活者という立場からぶれることなく権力への抵抗を試みる。そこに強さが感じられる。
 軽はずみな政治家批判とは異なる理性の象徴といえる本だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『フード左翼とフード右翼』(速水健朗/朝日新聞出版・798円)

 「有機野菜」「地産地消」など自然派の食を愛好する人々、そして、「コンビニ弁当」「ファストフード」など、産業化された食を愛好する人々。現代の日本人の食の好み、ライフスタイルから見えてくる政治的な分断を読み解くフード政治思想史。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 20年に一度の式年遷宮で話題となった伊勢神宮。その社殿が立地する都道府県・三重のタウン情報誌が『月刊Simple(シンプル)』(ゼロ/390円)だ。
 1979年創刊、県内で最も歴史を持つ雑誌であり、三重では書店・駅売りの他に大学生協でも販売されている。音楽・映画・スポーツ・演劇などのイベント案内に加えフリマの開催日程、宴会やウエディングの耳寄り情報まで、地域密着型インフォメーションが満載。地元県民から愛読されているらしい。
 2014年新春号の特集は『美味しい伊勢』。松阪牛といった豪華料理ではなく、鉄板に盛られたコッテリ味のスパゲティ“モリスパ”やカラ揚げ丼など、B級ソウルフード店を中心に126店が紹介されている。地元ファンのみならず観光客も楽しめる充実した内容だ。
 四日市・鈴鹿・伊勢志摩など、市ごとに「食」をテーマとした別冊も発売されており、こちらも興味深い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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