また、急な発作や病気が発症しやすいとされる“魔の時間帯”を知ることで、投薬のタイミングや治療を考える“時間治療”も重要になっているという。薬をいつ、どのようなタイミングで飲めば効果があるのだろうか。
人間は通常の生活を送っていれば、朝日が昇ると活動を始め、日が沈むと休むという“体内時計”を持っている。
専門家に言わせると、最近、この体内時計が、薬物療法の新たな手段として脚光を浴びているという。
医学博士の内浦尚之氏はこう説明する。
「人体のさまざまな機能は、ほぼ24時間を1単位としていることが最近わかってきました。体温や血圧は夕方頃に最も高くなりますし、尿量が多くなるのは午前中です。自分では意識しないうちに体の中にこうしたリズムが刻み込まれているのです。また研究報告として、実は体内時計を作っている遺伝子があるという事も判明している。人間が環境に適応するために、長い進化の過程で獲得したシステムといえます」
従って、薬も体内で作用する以上、体内時計の影響を受けるという。薬が作用するまでに胃や腸から吸収される行程を通るが、胃腸のリズムによって吸収の速さやよし悪しが変化する。胃腸が活発に動く時間帯だと速く吸収され、効き目も早く現れるし、吸収能力が低い時だと、効果はその分、落ちるというわけだ。
「体の薬への反応性も、時間帯によって違います。ですから、薬を飲むときに時間を考慮することによって、薬の効き目や安全性を高めることもできるのです」(同)
もちろんリズムという点で言えば、病気も体の機能が大きく関係するため、その働き具合によっては症状が悪化することもある。昔から「厄年」とか「厄の時刻」などと呼ばれてきたように、病気に罹りやすい時間帯があることが経験的に知られている。
では、病気になりやすい時間帯とは、どういう事を意味するのか。専門医に聞くと、病状は生体リズムと密接に関わっており、変化もするという。
「狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、早朝から正午に発生しやすく、その理由は血圧の上昇が目覚めとともに著しいことや血液が固まりやすくなっていることが考えられます。そこで、早朝から午前中の時間帯の血圧をうまくコントロールすることが大切になります。また、慢性関節リウマチで問題となる“朝のこわばり”は、関節周囲の炎症のむくみが朝方に強くなることによります。歯痛などの痛みも、夜間から早朝にかけて発現するし、消化性潰瘍も夜間に胃酸の分泌が増加するために起きます。ですから、こうした時間帯に薬を飲用すれば効果が得られるといえるでしょう」(薬学部教授)
冒頭部分で“魔の時間帯”にも触れているが、病気は我々を「隙あらば」と狙っている。だが、この悪魔は絶えず動き回っている訳ではないらしい。活発に動き回る時間とそうでない時がある事が、疫学的調査でわかってきているのだ。