東京・多摩総合医療センターの総合内科担当医がこう説明する。
「“秋バテ”も一般用語になりました。今年も猛暑に見舞われたため、この時期に“秋バテ”で体調を崩す人が多い。夏は熱中症予防の水分補給で水分を多く摂るので胃液が薄まることもあるし、逆に脱水でも胃液の分泌が低下する。そのため、胃腸の機能低下で食欲がなくなり、食事内容がアッサリしたものばかりに偏りやすい。ビタミン、ミネラルなどの栄養不足も体調不良の原因になっています。秋に入った今こそ、体調をしっかりと立て直す必要があります」
とくにビタミンB1が不足すると疲れが溜まるので、豚肉やウナギ、大豆製品などを意識して多く摂った方がいいといわれる。だが、最も“秋バテ”の原因になりやすいのは、残暑がきつい日に冷房を使う室内と外気との温度差に体が適応できず、自律神経の働きが乱れる“冷房病”。これがこの季節まで続き、体のだるさ、無力感などさまざまな不定愁訴が現れる。
東京社会医療研究所の片岡剛正主任(医師)はこう説明する。
「比較的若い人ほど秋バテになりやすい、ともいわれます。それは幼いころから年中、快適な温度で過ごしてきた人たちで、体温調整機能が鍛えられていないため、秋になってから疲れ、バテを引き起こしやすい。体力が落ちた中高年者も同じで、室内外の温度差が7℃以上にならないように心掛ける必要があります。風邪も引きやすくなりますからね」
“自律神経の乱れ”と体調不良の因果関係はどいうものだろうか。
前出の総合内科担当医は「心臓を動かしたり発汗を促したり、血圧や胃腸などの体の働きは自分ではコントロールできません。この働きをつかさどっているのが、自律神経ということになります」と説明し、自律神経の観点から三つほど理由を挙げた。
一つは、「脱水」。夏に汗を多くかいているので、体は完全に脱水状態から抜け出せていない。そのため、自律神経のバランスが崩れやすい。
二つ目は、夏の間感じていた汗や湿度の不快感。秋になっても残暑日で同じような感覚を受けることがあるが、人間はちょっとした不快感がストレスになり、自律神経が乱れる。シャツや靴が合わないと、イラついたり気になるのと同じ。
三つ目は、前述したように温度差。エアコンの効いた室内と外気温の差が自律神経を乱す。また、季節の変わり目も同じように体調を崩すのは、気温の差で変調をきたすため。
医療関係者によると、自律神経には交感神経と副交感神経があり、大まかに言えば交感神経はクルマでいうアクセルで、副交感神経はブレーキの役割を果たすという。
交感神経が高まると心拍数が上がり、呼吸が浅く速くなって、体は緊張、興奮状態になる。副交感神経が働けば心拍数はゆっくりとなり血圧が下がってリラックスモードになるのだ。骨や肉などがハードウエアなら、自律神経はソフトウエア。つまり、ソフトウエアがうまく働かないと健康とは言えないわけだ。