八万 漫画家の仕事がなくなりそうなとき、暇な時間だけはたくさんあったので、何かの資格を取れば仕事に就けるんじゃないかと。それでバイクの免許やフォークリフトの資格を取ったんですけど、やはり食べていくには相当な腕が必要なんですよ。それにこれまで交通整理とか、いろんなアルバイトを経験してきましたけど、外での作業となると寒かったり、暑かったり、雨だったりと50歳に近いオヤジの体にはかなりキツイわけです。だからこれから長い間、腰を据えてやる仕事なら、外ではなく室内の仕事がいいなと(笑)。そこで介護施設なら、ウンチを触るかもしれないけど、施設自体は清潔で空調もきちんと効いているだろうということで、当時のホームヘルパー2級を取得して、介護老人保健施設で働き始めました。
しかし、未経験なのにいきなり認知症棟で、しかも、そこで働いている職員は女性中心。施設内ではネタの宝庫という出来事が多かったんです。職員には、なぜかシングルマザーが多く、元ヤンのような人も多かったですね。それに私と同じ世代のオヤジが何人か入ってきたんですけど、私も含めいじめの対象になりやすかったり。他にも見た目はインテリっぽいのに、きつく言われようが、いじめを受けようが、戦場のように忙しい職場の隅っこでただ立って見ているだけで、何の仕事もしないオヤジだったり。同僚の女性と男女の仲になったはいいけど、その女性が美人局だったなんて話も聞きましたよ。また、病院勤めに比べると、若干、介護施設の方が緩い部分もあるので、働いている看護師さんの中には、利用者と間違えて思わず介護しようと声を掛けそうになるような高齢の女性もいました(笑)。
一方の認知症の方々は、最初は暴力を振るわれたり、私が男だというだけで嫌われたりしましたが、慣れてくると一般棟の方々に比べると、子供みたいに純粋で心が洗われました。
−−49歳で未経験の新たな仕事を探すのは、勇気がいることだと思います。
八万 医療とか人のケアだとか無理だと思っていたんですけど、やってみたら人と接する仕事は意外と楽しいもんですよ。人間嫌いな人もいるとは思いますが、認知症の方々の話を聞くのも楽しいです。だから、もし今仕事を探している人や、若くしてプー太郎をやっていて、将来を不安に思っているような人たちの励みになればうれしいですね。
(聞き手:本多カツヒロ)
八万介助(はちまんかいすけ)
別ペンネームで長年ギャグ作品を執筆。またイラストレーターとして活躍。2010年から介護老人保健施設で働き始め、'14年に介護福祉士の資格を取得。