『Qrosの女』(誉田哲也/講談社 1680円)
有名になることは、果たして本当に幸福な状態と言えるのだろうか。確かに人は他人より優位に立ちたいという願望を多かれ少なかれ必ず持っていて、目立つことも喜びになる。しかし、会社やサークルなど限られた人間関係の中で目立つことと、日本中で有名になることは同じではない。大勢の人から憧れられたりするが、なぜか批判の対象にしてもいい人間として認知されてしまうのだ。
本書はそうした有名な人とそうでない人たちとの間で交わされる、さまざまなマイナス面を考察した小説だ。女性警官を主人公にした〈姫川玲子〉シリーズ、〈ジウ〉シリーズがこの作者の代表作と言ってもいいと思うけれど、本書はそうではない。ファッション・ブランド『Qros』のテレビCMに出ている美女がいつの間にか世間で話題になっていた。とても魅力的で印象に残るが、名の知られた女優やタレントではない。あれは誰? 正体を知りたい、という書き込みがインターネット上で頻繁にされるようになった。これに応じて週刊誌記者が動き出すも、当の“Qrosの女”は注目を浴びたことに恐怖を感じていた。そして記者も女も思わぬトラブルに巻き込まれ…。
本書は一種のメディア論になっていて、ネットが浸透してしまった現代を糾弾している。笑えるシーンの多いエンターテインメントだが、なかなかシリアスな小説でもある。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『週刊 日本の名車』(デアゴスティーニ・ジャパン/創刊号特別定価290円、第2号以降562円+税)
『トヨタ2000GT』『マツダコスモスポーツ』『ホンダS800』『日産スカイラインGT-R』…。日本のモータリゼーションの歴史を彩ってきた名車たちを、詳細なデータとビジュアルで紹介する週刊分冊マガジン。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
2014年大河ドラマの公式ガイドムックである『NHK大河ドラマ・ストーリー 軍師官兵衛 前編』(NHK出版/1103円)が発売中だ。登場人物の相関図や役者へのインタビュー、前編のあらすじ、時代背景をつかめる歴史考証まで、大河を鑑賞する上での予習に役立つ。
主人公の黒田官兵衛は、太閤・秀吉の懐刀といわれた天才軍師。秀吉の天下統一に功著しかった人物であり、関ヶ原の合戦以降は巧みな処世術で徳川家康に恭順したという。
ドラマでは岡田准一が官兵衛を演じる。かつて大河で秀吉役に抜擢され人気を集めた竹中直人が同役で再登板する他、秀吉の正室・おねに黒木瞳を配するなど、キャストも注目されている。
敵を殺すことより人を生かす道を模索したといわれる男を、乱世を集結させるために出現した人間と位置づけ、その姿を波乱の現代に反映させようという趣旨が読みとれる。期待の新ドラマの解説、ぜひ一読を。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意