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本好きオヤジの幸せ本棚(2)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
 『江戸のハローワーク』(山本眞吾/双葉新書 840円)

 世の中が便利になればなるほど、人の思い上がりも増してしまうものだ。今より不便だった時代に戻ってもいい、という気持ちにはなかなかなれない。たとえばインターネットのない社会など絶対に嫌だ、と思い込んでしまっている。だが、あらためて振り返ってみたい。ほんの15年ほど前までは、まだまだパソコンの普及率は低かった。それでも私たちは連絡を取るため相手に何度も電話し、調べものをする時には図書館などに足を運んでいた。それが普通のことで、特に不便とも感じなかった。つまりは時代ごとに周囲にあるものを最大限工夫して使い、人は生きているのだ。
 本書は江戸時代にごく普通に営まれていた、様々な商売形態を紹介している。魚売り、納豆売り、飛脚、廻船問屋、大道芸人…60項目以上の商売を取り上げ、きわめて詳細にその内情を書いてくれている。今では消滅してしまったものが興味深いのはもちろん、居酒屋、大工など現存しているものであっても社会への溶け込み方、浸透の程度は異なるので、そのあたりも丁寧に触れているところがうれしい。インターネットどころか電話、自動車のない時代であろうと、人の生命力は旺盛だったとわかる。化粧品を扱う小間物屋から数々のヒット商品が生まれたのは、若い女性客が集まる場所だったからだ。本書をガイドブックに時代小説を読むと、より楽しめる。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
 『人を束ねる』(久米一正/幻冬舎新書・840円)

 著者はJリーグ名古屋グランパスのゼネラルマネジャー。組織の様々なことを決める要職である。万年中位だったこのチームを、いかにして勝てる集団へとまとめあげたのか。サッカー界のカリスマ、ストイコビッチ監督も絶賛する組織再建のヒントが満載だ。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 1971年に創刊され、2009年に休刊。その後、'11年9月に復刊した鉄道雑誌が『旅と鉄道』(朝日新聞出版/980円)だ。奇数月21日の発売。
 主な読者対象は通称“鉄っちゃん”と呼ばれるコアな鉄道マニアと思われるが、マニアでなくとも旅へのロマンと郷愁をかきたてられる魅力ある誌面だ。
 5月号特集『鉄道ひとりぽっち』は単行列車、つまり一両編成の路線を取り上げている。北海道釧路−網走間の雪景色の中を縫うように走る釧網本線花咲線、山陰の日本海の荒波を背景に運行する山陰本線姫新線・芸備線の2つのローカル線を、作家の森見登美彦とエッセイストの酒井順子がレポート。忘れかけた日本の風景を思い起こさせ、日常をしばし忘れさせてくれる。駅の立ち食い蕎麦屋など、沿線の素朴なグルメ情報もうれしい。
 震災に遭い運行を休止していた東北・三陸沿い路線の復旧状況にも触れている。地元に愛された列車が元気な姿を取り戻す日も近い。(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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