「夏の疲れが回復せず、消化器の働きが低下し、体を動かすエネルギーが低下した状態でした」
補中益気湯を処方し、体を休めて夏の疲労を回復させるように指導したという。
「2週間後に来院したときには動悸もおさまり、疲れもほぼ回復していました。しかし、年齢的に本格的な不整脈を発症しやすいため、しばらく様子を見ることにしています」(三浦院長)
不整脈、循環器疾患の専門医である浅草ハートクリニック(内科・循環器内科。東京都台東区)の真中哲之院長が、次のように報告してくれた。
「今年の夏は、動悸を訴えて来院する患者さんが年代を問わず多かったですね。脱水が原因でも動悸は起きますが、高齢の方では脱水が原因で本当の不整脈を起こしている人もいます」
そもそも、動悸とは、どのような状態を指すのか。真中院長はこう説明する。
「心臓は1分間に50〜90回、規則正しく脈を刻んでいます。このリズムが崩れて、胸のあたりに違和感を覚える状態が動悸です」
動悸には、脈が速くなるもの、一拍ドックンと強く打つもの、ドックンドックンと連続して起こるもの、の3つがあるという。ちなみに、動悸と不整脈は違うもので、心臓の病気が原因で脈が乱れる場合には『不整脈』と呼ばれる。
不整脈には、脈が速くなる『頻脈』、脈が遅くなる『徐脈』、脈が飛んだり抜けたりする『期外収縮』がある。
「頻脈は、40代ぐらいまででは、発作性上室性頻脈や心室頻拍が、60代以降では心房細動が多いですね。徐脈には、電気信号の伝わり方が悪くなる房室ブロックなどがあり、心臓突然死の原因になることがあります。期外収縮には、上室性と心室性があります。心配ないものが多いですが、心室性期外収縮が頻発すると注意が必要です」(同)
動悸を訴えて来院する患者のうち9割は病気が原因のものではない。残りの1割が何らかの病気が原因で、治療が必要な不整脈だという。
動悸の原因となる病気には高血圧や甲状腺機能亢進症などがあるが、もっとも注意すべきは心臓の病気だ。
「高齢の人には、心臓の病気が潜んでいる場合が少なくありません。僧帽弁閉鎖不全症などの心臓弁膜症も高齢になると増えるし、心臓弁膜症でも動悸や息切れが起こります」(同)
心臓は、左右の心室と左右の心房の4つの部屋に分かれている。心房細動は、心房がけいれんを起こしたように細かく震え、心臓が規則正しく拍動しなくなる。そのため血液が一定に流れなくなり、心房内で血液がよどみ、血栓(血の塊)ができやすくなる。
血栓ができ、その血栓が血流にのって脳に流れていき、脳の血管を詰まらせる。それが心原性脳梗塞と呼ばれるものである。
「脳梗塞を引き起こし、しかも、他のタイプの脳梗塞より後遺症が重症の場合が多いことが心房細動の怖さです」(同)
あの長嶋茂雄さんも、心房細動から心原性脳梗塞を発症した。また、慢性心房細動から最終的に心不全に進むことがあるという。