『破門』(黒川博行/角川書店 1785円)
登場人物が外国人だと親近感が湧かないから翻訳小説は読まない、という人は結構いる。現在、優れた犯罪エンターテインメント小説を発表し続けている日本人作家の一人に、黒川博行を加えないわけにはいかないだろう。1949年生まれで'84年デビューなので、ベテランと言っていい。当然のことながら読者を納得させる安定感、大人の風格は感じられる。しかし同時にエネルギッシュであることも忘れていない。そういう作家である。
本書『破門』は'97年に第一弾が刊行された〈疫病神〉シリーズの5作目である。我を通すためにはどんな手段もためらわないイケイケのヤクザ・桑原と建設コンサルタント・二宮がコンビで登場するシリーズだ。本作の物語は二人がある映画の脚本作りに関わるところから始まる。桑原の組の若頭がプロデューサーに出資したので、海外経験のある彼らがライターの取材を受けることになった。ところがプロデューサーが出身金を持ち逃げした。最初から詐欺を働くつもりだったのだ。
絶対に奴を見つけ出さなければいけない…。行方を追うスピーディーな展開、炸裂するバイオレンスに読者は我を忘れることだろう。しかし何と言っても秀逸なのがコンビの交わすユーモラスな会話だ。残酷な描写もどこか笑える。ほっとするところがある。こういう情緒は確かに翻訳小説では味わえない。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『絶望の裁判所』(瀬木比呂志/講談社現代新書・798円)
近年、最高裁幹部による裁判官の思想統制が徹底し、リベラルな良識派が排除されつつあるという。33年間裁判官を務めた著者が、知られざる裁判所腐敗の実態を告発。もはや裁判所に正義を求めても、得られるものは「絶望」だけだ。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
数年に1度、忘れたころに勤務先の親睦会で、または家族と連れ立ち、ボウリング場を訪れることがある。ボウリングは、愛好家でもなければそのくらいの頻度でしか楽しむ機会のないレジャーだ。
だが、ボウラーのための必読書として愛読されている雑誌もある。『ボウリングマガジン』(ベースボール・マガジン社/840円)だ。
トッププロのフォームを連続写真で分析したコーナーなどは、さすがはスポーツ専門出版社の刊行物だけあって手慣れており、アマチュアがスコアアップのために読むには最適といえそう。
また、ウエアやシューズ等の新商品の紹介、大会やイベントのスケジュールなど、実用情報も掲載。子どもたちに向けて“キッズ情報”にも力を入れており、次代を担う読者へのケアも怠らない。
マイナースポーツを子どもへとつないでいこうという姿勢は、雑誌が担う役割の一つではないだろうか。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意