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徹底検証・徳川埋蔵金の真実 トレジャーハンター・八重野充弘 第2回 水野家親子2代の発掘(前編)

 赤城山麓での徳川埋蔵金の発掘は水野家を抜きには語れない。明治時代にこの地に定住して掘り始めると、事業は親から子へ受け継がれ、そして孫の代まで財宝発見に執念を燃やした。このことは広く知られている。
 加えて手掛かりとなる文書、土中から掘り出したと伝えられる物証も残っているので、今でも水野家の発掘の歴史の延長線上に真実があると考える人は多い。
 しかし、果たしてそうだろうか。実は同家の来歴や伝承、伝わる物証などには疑わしい点が多い。全てをうのみにしてしまうと、真実を見誤る恐れがあるので、一つ一つ検証していきたい。

 初代水野智義が赤城山麓の津久田にやって来たのは、1889(明治22)年のこと。その6年ほど前から榛名山一帯を調べ歩き、最終的に赤城で埋蔵金の見張り役と思われる人物を捜し当て、この人物の動きを注視することによって、埋蔵金の在りかを知ろうとしたらしい。
 では、何をきっかけに智義は埋蔵金探しを始めたのか。それは、伯父にあたる中島覚太郎(蔵人とも)の遺言だという。
 智義の日記によると、水野家は代々徳川家の旗本で、江戸牛込に住まいがあったが、戊辰戦争で一家は離散、数年後に巡り会った伯父の口から、莫大な額の幕府御用金が赤城山麓に埋蔵されていることを告げられた。しかも、その一部である甲府にあった24万両を、自ら榛名神社の近くまで運んだというのだ。智義が最初に榛名山を調べたのは、甲府の御用金がまだその近くに隠されたままになっているかもしれないと考えたからだろう。
 それはさておき、チェックしたいのは中島という人物。水野家の伝承では、勘定吟味役という重職にあったというが、筆者が調べた限りでは、幕末の幕府要人の中にそのような名前の人物は見当たらない。

 さて、探索の舞台を赤城に移した智義は、「井戸を見つけて掘れ」という伯父の遺言に従って、津久田を調べ回った。そしてある場所で埋められた古井戸を発見、掘ってみたところ、深さ4、5メートルのところで突然白煙が上がり、さらに掘り進めると、10メートルほどのところから直径1メートルもある甕(かめ)が出てきた。
 中から現れたのは、高さ約10メートルの人物像。
 黄金製だったから当然のことながら埋蔵金と関連があり、となると、徳川家康としか考えられない…。といういきさつで、今日まで『東照権現像』として伝わっているものが右ページのものだ。

 しかし、この像は家康とは似ても似つかない。しかも現存しない。
 写真は、1972年に埋蔵金研究家の畠山清行氏が、カメラマンのK氏とともに渋川市に住むある女性の家を訪ね、撮らせてもらったものだが、本物ではなく、誰かがすり替えた真鍮製のものと説明されたという。本物が本当にあったのかどうかが問題だ。
 像と一緒に出てきたものがもう一つある。直径15センチほどの銅製の皿で、一見灯明皿のようだが文字が刻まれている。中央に「井」、次に「八社」、そして「子二四芝下炭」「未三二四芝下石」「亥雨芝下石」。もうひと塊の文字群があるが、小さ過ぎて解読不能。

 ちょうどそのころ、水野家とは直接関係のない場所で、別の発見があった。1キロメートル半ほど北の深山の双永寺という寺の床下から、壺に入った3枚の銅板が出てきたのだ。文字だけのものと絵図、そして方角を描いた図面の中に各種マークが入ったもの。これがマニアの間では今でもよく知られる『双永寺秘文』だ。
 智義がこの秘文の内容を知ったのは、発見から6年ほど後のことだった。埋蔵金に関心を持つ京都の商人が聞きつけて、いったん持ち去ったからだ。しかし、それを入手できても解読まではできなかった。智義だけではない、秘文の内容はすでに広く知れ渡っているが、今日まで誰一人解読に成功した者はいない。
 明治の後期、赤城山麓には水野家以外の探索者も、ぼちぼち姿を現すようになっていたようで、虚実入り交じった情報が飛び交い、探索がエスカレートしていったように思われる。誰かがよそから持ち込んだニセ物証に翻弄されたこともあったのではないか。
 結局、智義は以後もこれといった発見はなく、1926(大正15)年、74歳で生涯を閉じた。その遺志を継いで発掘に挑戦したのは、東照権現像発見の日に誕生したという次男の義治だった。
(続く)

八重野充弘(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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