瀬川晶司さん(しょったん)という実在するプロ棋士が主人公で、中学生でプロ棋士養成機関『奨励会』に入会して、将棋一筋の人生を送るものの、26歳の年齢制限までにプロ資格を得られず、あえなくサラリーマンに。それでも将棋を諦めきれずにアマ名人として活躍していたところ、周囲の支援者の後押しを得て、異例中の異例である「プロ棋士への再挑戦」を許される…という“感動の逆転ストーリー”です。
キャストも非常に贅沢で、しょったんを演じる松田龍平、小林薫、妻夫木聡、染谷将太、イッセー尾形など、錚々たる顔ぶれ。そして、彼らが演じる登場人物すべてが「善い人」なんです。最近、癖のある悪役しか見たことのない國村隼までも。そんなところがひねくれ者の自分には引っかかってしまう点なのですが、「実話」ですから文句も言えません。
しかし、少し訳が分からなかったことがあります。
再挑戦するにあたり、試験将棋は全部で6局あり、現役プロ棋士に3勝できれば合格ということでしたが、対戦相手に三段の棋士がいまして…。“あれ? プロは四段以上なのでは”と。
自分はこれまでの人生、天才中学生棋士の藤井聡太くんが現れて大騒ぎになっている時でさえ、将棋に関心を向けたことがないため、その闘いの熾烈さがよく分かっておりません。
だから、棋士の方々の脳内で、どれだけ膨大な数の先を考えて、次の一手を選択しているのか謎なんですね。その間の思考の過程は、やはり映像化されてはいなかったので、残念でした。
ただ、今回の映画のおかげで、厳しいふるいにかけられていく世界なのはよく分かったので、藤井聡太くんの「中学生で七段」というのが、いかにド外れた偉業なのかをやっと理解できました。
ところで、小学生のしょったんを優しく励ます、松たか子扮する先生の出てくるシーンがあります。
つい先日も、あるトークショーで、「幼少期の男子にとって、キレイな女性の先生の影響の大きさ」を語ったばかりですが、自分にも、小2の時の憧れの先生がいまして、当時の同窓生が集まると、あの先生との甘酸っぱい思い出を口々に語り出します。
しょったんも、いざという時、先生の言葉を思い出すわけで、自分もそうですが、この先生を通過したかどうかは、後の人生の「うるおい」において、大きな差があると思った次第です。
画像提供元:(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
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■『泣き虫しょったんの奇跡』原作/瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊) 監督・脚本/豊田利晃 出演/松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、妻夫木聡、松たか子、イッセー尾形、小林薫、國村隼 配給/東京テアトル株式会 9月7日(金)全国ロードショー■小学生の頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司(松田龍平)は、プロ棋士の登竜門である新進棋士奨励会に入会するが、年齢制限の重圧から勝てなくなり退会する。途方もない絶望と挫折感を味わった晶司はその後、サラリーマンとして生活していたが、親友の鈴木悠野(野田洋次郎)や家族など周囲の人々に支えられ、再び、プロ棋士の夢をかなえるため、立ち上がる。
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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。