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出てこい! ニッポン埋蔵金 発掘最前線(12)

 愛知県知多半島の内海といえば、かつては埋蔵金マニアなら誰でも知っている場所だった。金額の多さと信ぴょう性の高さから、国内ベストテンにランク入りする有力伝説の舞台で、何度かの発掘計画が話題になったことがあり、筆者も実際に掘るところまではいかなかったが、たびたび足を運んでいる。

 江戸時代初期、ここに港を開き廻船問屋を興した前野家は、5代目前野小平治のころには千石船を11艘も持つ豪商に成長していた。代々尾張藩の御用を務め、上納金や調達金の求めにも気前よく応じていたが、5代目は気骨のあった人物のようで、藩の言いなりにはならなかった。その一方で、天保の大飢饉の際には、江戸町奉行の要請を受けて米を江戸に運ぶための船を無償で提供した。
 これが藩の怒りを買い、同家に取りつぶしの危機が迫ったのだ。藩としては、数十万両に達していた借金を踏み倒し、莫大な財産を取り上げることもできるから、まさに一石二鳥。
 この陰謀を事前に察知した5代目は、財産の大半を屋敷内とその周辺に分散して埋蔵した。藩は結局、一気に取りつぶすよりも、細く長く搾り取った方が得策と考えたのだろう、おとがめなしで前野家は安泰。ただ、埋蔵した数千両の金銀や、密貿易で手に入れた外国金貨などは、そのままにしておいたという。幕末近くに蔵の中から見つかった埋蔵金のリストから見積もると、その総額は現在の骨董価値で数百億円とみられる。

 リストが見つかったのは、事業がうまくいかなくなり、傾きかけた同家を立て直すために、伝え聞く先祖の遺産を掘り出そうと、8代目が調査に乗り出したときのこと。8代目はそれ以来延々と昭和の初めまで探し続けたが、とうとう見つけることはできなかった。
 過去の研究家の調べによると、屋敷外に埋蔵したものの一部は、すでに何者かによって掘り出されている可能性があるという。知多半島在住者の中に、何度も商売に失敗しながら、その都度どこからか資金を調達してくる男や、太平洋戦争後間もないころから10年以上にわたって、名古屋市内で定期的に小判を売りさばく老女がいたからだ。
 きっと小平治の埋蔵金を見つけたに違いないとウワサされた。だが、もしそれが本当だったとしても、埋蔵された量を考えれば、全てが見つかっているとは思えない。眠っているものの方がずっと多いはずだ。

 筆者がおよそ30年ぶりに現地を訪ねたのは、一昨年の暮れのこと。本誌に記事を書くためでもあったが、“何か”が掘り出されたという報告があった神社の境内を見ることと、伝説の舞台の現状を視察するためだった。
 冬場だったので駅周辺から町中まで、ひっそりとして人の動きは少なく、埋蔵金に関心のありそうな人に出会うこともなかった。その少し前、この件に関心を寄せていた地元名古屋テレビの朝の情報番組『ドデスカ!』が、前野家の子孫に取材の申し込みをしたが、あっさり断られたというから、(もう終わったのかな)という感が強く、このときも何の手応えもなく、寂しく帰路に就いたのだった。

 ところが、昨年の夏になって、面白いニュースが飛び込んできた。現地の旅館の女将さんたち3人が、埋蔵金伝説を題材にした料理を作り、歴史の町・内海をアピールしようとしているというのだ。
 その料理『小平治御膳』は、知多豚の豆乳しゃぶしゃぶをはじめ、地元産の大アサリのフライを小判の形にしたもの、モズクの酢の物に金箔を散らしたものなど。また、団体客用に用意する茶碗蒸しには、1組につき1個、小判形のかまぼこを入れて当たりくじにする趣向もある。そのほか、船の形をした紙製の『小平治丸』に、内海のスイーツを盛った土産物も登場。おまけに、小平治くんというキャラクターまで考案されたというではないか。
 この情報も名古屋テレビ『ドデスカ!』のスタッフからもたらされた。どっこい、伝説は忘れ去られてはおらず、町おこしに生かされているのだ。しかも、うれしいことに、もしかしたら埋蔵金の調査も可能かもしれないという。番組でレポートするためだが、筆者は喜んでこの企画に協力することにした。

 猛暑の8月上旬のある日、午前8時半には名古屋駅に着き、ロケ車で南知多を目指す。前野小平治ゆかりの高宮神社や、前野家の後援もあって江戸時代末期に廻船の船主になった内田佐七の住居などを取材した後、われわれは情報収集のために町へ。すると、3カ所目である人物にたどり着き、願ってもないチャンスを手に入れることができた。
(続く)

トレジャーハンター・八重野充弘
(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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