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やくみつるの「シネマ小言主義」 ★「視力を取り戻す」感覚を、疑似体験できる! 『かごの中の瞳』

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提供:週刊実話

 何と言っても「着想」がナイスな映画です。
 タイ・バンコクで夫と共に暮らす美しい女性ジーナ。彼女は子供の頃の交通事故で失明しましたが、献身的な夫に支えられて、不自由なく暮らしています。2人の悩みは、なかなか子供ができないことくらい。そんなある日、医師の勧めで角膜移植の手術を受け、片目の視力を次第に取り戻すのです。
 回復していく彼女の視野を映像化しているところが面白いと感じましたね。光と色を取り戻し、ぼやけていた輪郭が次第にくっきりと焦点を結び出す。
 自分もまた、昨年、白内症の手術を受けまして、弱視に近いド近眼から、0.3〜0.4程度まで視力が回復しました。それまでは、眼鏡なしでは怖くて歩けないほどでしたが、すべてがボンヤリとした状態から少しずつ見えてくる感覚が、この映画でうまく映像化されていて、感情移入が楽でした。
「もっと色が見たい」と願うジーナを、夫が「いいところがある」とバンコクの花市場に連れていき、彼女が歓喜するシーンは非常に印象的です。
 ただ、ジーナはかつて見えていた記憶があるので、話の展開がやや薄っぺらくなってしまったのが残念。もし、これまでの人生で一度も見えたことのない人だったとしたら、見えるようになった時の衝撃と感動は、この比ではないはずです。色の概念はおろか、何をもって美醜とするかの判断基準もないのですから。
 彼らは、夢をどんなふうに見るのでしょう。音だけの夢?…と、考えれば考えるほど謎で、そういう点を掘り下げた作品があったら見てみたいと、本作がきっかけで思ってしまいました。
 さて、見えるようになったジーナは、夫の容貌も、住んでいた部屋も、「想像とは違った」と、残酷な一言を漏らします。
 外界との接点のすべてを夫に頼りきっていたジーナが自力で羽ばたきだすので、夫は不安でなりません。
 心の底に眠っていた欲望を解放する先が、やたらと官能的なのは観客へのサービスなのかもしれませんが、自分は「ちょっと一面的では」と違和感を覚えました。
 すれ違う2人の裏切り、再び視力が奪われていく恐怖…と、この先はサスペンス仕立てとなっていますのでお楽しみに。
 ところで、自分は眼鏡をしないで歩くようになったのですが、これがあきれるほどバレない。一方、サングラスだとバレる。人は、眼鏡とヒゲというアイコンで記憶しているもんだという事が分かりました。

画像提供元:(C)2016 SC INTERNATIONAL PICTURES. LTD 配給:キノフィルムズ/木下グループ
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■『かごの中の瞳』監督・脚本/マーク・フォースター 出演/ブレイク・ライヴリー、ジェイソン・クラーク、ダニー・ヒューストン他 配給/キノフィルムズ/木下グループ 9月28日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他全国公開。■保険会社で働く夫ジェームズ(ジェイソン・クラーク)と、赴任先であるタイ・バンコクで結婚生活を送るジーナ(ブレイク・ライヴリー)。彼女は、子供の頃の交通事故で失明したが、ジェームズの献身的な支えで何不自由なく暮らしていた。そんなある日、医師の勧めで角膜移植に踏み切ったジーナは、片目の視力を取り戻す。喜ぶ一方、初めて見たジェームズが想像とは違い、地味で平凡な中年男であることを知る。心の奥底に眠っていた好奇心や冒険心が目を覚ましたジーナは、流行のファッションに身を包み、外の世界へと飛び出していくが…。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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