では、声の変質や老化を防ぐことはできるのだろうか。専門家は「声帯のアンチエイジングもスポーツと一緒で、体を鍛えるように声帯を鍛えれば改善する。日々、声を出して声帯を使うことです」と言う。
また別な医療関係者も、
「1日5分くらい声を出して歌うのがいい。歌は強弱、高低があるからです。だらだら歩くよりウオーキングの方が体に良いように、声帯にも適度な負荷を掛けることが必要です」と説明している。
しかし、その場合も、加湿のための水分補給が重要なポイントになるという。これは、老化で筋力が衰えると、声帯を覆う粘膜が乾いてくるからだ。歌い続けているプロの声楽家でも、声にツヤが無くなってくるのは、それが原因とされる。プロの歌手が加湿器を持ち歩いているのは、そのためだともいう。
「しかし、一般の人が加湿器を持ち歩くわけにもいかないでしょう。そのため、風呂場で歌うというのは、理にかなった老化防止策で“声帯の道場”です。声も響くし、歌が上手くなったような良い気分にもなるのでお勧めです」
こう言うのは、都内でボイストレーニングスタジオを手掛けるジョージ・金井さん(50)。「声がいいと、人の心を捉えるんです。コミュニケーションの始まりは、何と言っても声の印象ですから」と、声の大切さを説く。
ボイスレッスンで声に張りとつやも出て、めりはりもついた。仕事の質が上がり、営業成績もよくなって、同期で一番出世したという生徒さんもいる、と金井さん。ビジネスにも役立っているというのだ。
ところで、俗にいう「いい声」というのは、人間の耳が捉えやすい声のことをいうのだそうだ。
「人間の耳が捉えやすい声、すなわち母音の『い』が周波数3キロヘルツで最も強く、耳にクリアに届くと言われてます。『お』『う』『は』の帯域は弱いので、聞こえにくく感じる。話すときに口の両端を少し上げ、全体的に『い』に近い発音をすると、相手に伝わりやすくなります」(国立病院機構東京病院耳鼻咽喉科・頭頚部外科担当医)
つまり、自然と笑顔に近い表情になるということ。良い声で話そうと努力すると、笑顔でコミュケーションをとることになり、声のアンチエイジング効果も上がるというわけ。
しかし、一方で声帯を動かす神経障害など、声のかすれに繋がる病気があることを忘れてはならない。 「声帯麻痺(まひ)」もその一つ。声帯運動を司る神経の障害によって起こる声がれと、食べ物を誤って飲み込む誤燕(ごえん)によって声の変調とともに、呼吸困難をきたす疾患に陥るともいわれる。
原因に肺がんや甲状腺がん、食道がんなどの悪性がんが潜んでいる場合もあるので注意が必要だ。声帯の異常(声がれなど)が1週間以上続くときは、専門医の診察を受けるべきだ。