『カラマーゾフの妹』(高野史緒/講談社 1575円)
思想が浅い、薄っぺらい内容の小説が多くの人に読み継がれ、いわゆる古典的名作としての地位を獲得するということはないだろう。しかしながら思想が深くて立派であれば必ず歴史に残る、とも言えない。やはり、面白くなければ誰も読まないのだ。
たとえば犯罪を物語の中心に据えたスタンダール『赤と黒』、カミュ『異邦人』などはミステリー小説とは言い難いけれど、十分にエンターテインメントとして楽しめる名作なのである。ロシアの文豪ドストエフスキーの代表長篇もしかりだ。『罪と罰』や『白痴』の面白さは永遠不滅である。
第58回江戸川乱歩賞を受賞した本書は、ドストエフスキー未完の大著『カラマーゾフの兄弟』の続篇という体裁の小説だ。正篇では地主フョードル・カラマーゾフが何者かに殺害され、その犯人は誰かというミステリーに似た謎解きの興趣でストーリーが進んでいた。しかし、謎が曖昧なまま未完に終わったのだ。本書のストーリーは、事件から10年以上が経過し、フョードルの次男イワンが本腰を入れて事件解決に挑むところから始まる。本書を読み終わったとき、読者は必ずや正篇も読みたくなるだろう。
つまりドストエフスキーの魅力を紹介してくれるガイドブックにもなっているのだ。古典的名作の世界にいざなってくれる作者の姿勢から、小説全般に対する愛が感じられる。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『スモールハウス 3坪で手に入れるシンプルで自由な生き方』(高村友也/同文館出版・1470円)
家を小さくして、お金をかけずに、シンプルに暮らそう−−。そんなスモールハウスに住む6人の暮らしぶりを紹介しつつ“スモール”だからこそ得られる自由な生活と「家」との関係について幅広く語る1冊。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
仕事から離れたとき、いかに豊かな時間を過ごすか。「食」「旅」「遊」、さらに「雑学」まで、オフ生活にまつわるさまざまな情報を網羅しているのが『日経おとなのOFF』(日経BP社/680円)だ。
現在発売中9月号特集テーマは「おとなのマナー再点検」。冠婚葬祭べからず集や応接室における上座と下座の位置など、知っていそうで意外と知らないオトナの礼儀が解説されている。また、いかにも今風のテーマとして取り上げられているのが、「高級レストランで、ケータイカメラを使って料理の写真を撮るのは迷惑か否か?」−−若い女のコによく見られる行為だが、マナーの達人によるとこれは周囲から大ヒンシュクを買っているらしい。
さらに、ツボを押さえた「完全おわびマニュアル」など、詫び方一つで難局を乗り切る術も。謝罪にあたって有効なネクタイの色・柄、頭を下げる際の顔の表情など、新説がいっぱい。修羅場に直面したときの対応策として、一読しておきたい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意