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本好きオヤジの幸せ本棚(19)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『東京プリズン』(赤坂真理/河出書房新社 1890円)

 太平洋戦争終結から67年が経過した。この戦争をはるか昔の出来事と思い込んでいる人は、明らかに恥ずかしい存在だ。戦中戦後をリアルに体感した大人たちに育てられた者が、40〜50代の働き盛りとして今の日本の中心地帯に属している。祖父母、両親の体験談によって間接的に戦争の影響を受け、現役社会人として生きているのである。
 本書のストーリーは2009年の終戦記念日から始まる。主人公マリは1964年生まれで小説家だ。作者の分身と言っていい。全篇がマリの〈私〉という一人称語りでつづられ、今の東京での日常と10代半ばの頃を思い返す回想場面を交互に描く。彼女は'80年から短い期間、親元を離れてアメリカ、メイン州のハイスクールに通っていたことがあるのだ。ただし交互とはいっても、シンプルに両者を比較する書き方をしてはいない。むしろ両者をつなぐ約30年の間、彼女の心に居座り続けた鬱屈、もやもやした気分を、ある種の詩として文章化することに全力を尽くしている。
 アメリカ体験によって母国を客体化した主人公が、長引く経済不況を経て、今あらためて母国特有の根本的な問題点を探り出そうとする。なぜ無謀な戦争に走ったのか、なぜバブル崩壊後の閉塞状況から脱することができないのか、この2つの問いを同列のものとして扱い、密接につなげた作者の才能に驚くばかりだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『LCCで行くぶらり格安世界の旅』(下川裕治/PHPビジュアル実用ブックス・1365円)

 「海外旅行に数千円でぶらりと行ける」それがLCC(格安エアライン)時代の新常識。遅延・欠航など気になるトラブルへの対処法から、お得にチケットを入手する方法まで、LCC使いこなし術徹底解説の1冊。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 単なる名画の特集ではない、ひねった構成で読ませるのがニューズウィーク日本版増刊『時代を刻んだ映画300』(阪急コミュニケーションズ/880円)。
 1912年から現在までを8つの時代に区切り、各時代に起きた事件・出来事をテーマとした映画を特集。1930年代の世界恐慌を背景に描かれた名作『スティング』、'63年のケネディ暗殺を主題としたサスペンス『JFK』、さらに東西冷戦がストーリーの隠し味となっていた『007シリーズ』など、映画で近代世界史をつづるといった内容だ。中でも、'79年に制作された作品『チャイナ・シンドローム』が、福島原発の事故を予見していたという記事は興味深い。
 主人公は、原発のドキュメンタリー番組を担当する女性レポーター。彼女が撮影した映像には、メルトダウン一歩手前の重大事故が映っていたにもかかわらず、原発関係者はその事実を揉み消そうと躍起になる…。
 まさに“映画は時代を映す鏡”と思える1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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