「歯周病は歯 (しせき=プラーク)を主な原因とする炎症疾患が多いですが、歯 とあまり関係のない疾患も多く存在し、個人差もあります。患いやすさや進行度合いも、人によって異なります」
昭和大学歯科病院歯周病科のベテラン医師はこう語り、さらに説明する。
「歯周病のうち、歯肉に限定した炎症を『歯肉炎』、他の歯周組織にまで炎症が起こっているものを『歯周炎』といって、これらを二大疾患と呼びます。歯科疾患の調査データによると、日本では歯周疾患の目安となる歯周ポケットは、40ミリ以上ある割合は50代の人で約半数、また高齢者だとさらに増え、それに伴い疾患患者も多くなります。歯周病というのは人類史上で最も感染者数の多い感染症とされていて、ギネス・ワールド・レコーズにも載っているほどです。これでも世界的にいかに罹患者が多いかがわかります」
一般的に歯周病が悪化する主因としては、歯を支える歯茎が歯周ポケット(深さ3ミリ以上)に溜まった歯周菌に侵されるようになり症状がひどくなることが挙げられる。放置していると、歯茎が炎症、腫れとともに膿が溜まるようになる。
この時点で歯はグラつきはじめ、きちっと治療しないでいると、抜歯しなければならない状態に陥る。
都内の会社員Cさん(53)も患った一人だ。
「最初は歯周病と言われたが、何かピンと来なかったんです。虫歯治療くらいにしか思っていませんでしたが、歯茎がむず痒く、歯が浮くような気がした。医師には即座に『歯の根元に膿が溜まっている』と告げられた。歯を指で押すとグラつく。診察後、飲み薬や塗薬を処方され、歯磨きの仕方も指導されたが改善しない。結局、3年間で計3本の歯を抜いたところで義歯を入れる羽目になりました。しかもその頃は体調もおかしく、風邪を引いたように熱っぽかったので別の医療機関を受診すると、肺炎を引き起こしているというではないですか。それが、歯周病と関係していると言うんです」
耳を疑ったCさんは内科医に詳細を尋ね、さらに自らが歯周病の治療中であることを打ち明けると、初めて歯周病と肺炎の因果関係を知らされ驚愕したという。
前出の昭和大歯科病院歯周病科の医師は、この症状について以下のように説明する。
「歯周病は健康診断では見落とされがちです。それにこの病気は口の中だけの問題だけではなく、最近では全身の至る所に影響することがわかってきているのです。Cさんの肺炎もその一つです。歯周病の毒素というのは歯茎に炎症や膿をもたらす他、歯茎にある豊富な毛細血管から毒素菌が血管に入り込んだり、唾液に溶け込んで体全体を駆け巡っていきます。また炎症反応や毒素により、心臓などの冠動脈に血栓ができて血流を詰まらせる原因にもなり、感染性内膜炎や狭心症などのリスクを高めることになるのです」