『マドモアゼル』(島村匠/祥伝社 1785円)
この書評欄では何度か、男性とは異なる女性ならではの強さを描いた小説を取り上げてきた。強さ、と単語で言うのは誰でもできるけれど、その中身を探っていくとかなり複雑なのがわかってくるわけで、たとえば女性が男性のまねをしても強くなれるとは限らないのだ。本書『マドモアゼル』は歴史に残る有名人の一人、ファッション・デザイナーのココ・シャネルが生きていた時代、とりわけ第二次大戦下のフランスを描いた小説である。戦争とファッション。まさしく相いれない、対極にあるもの同士だが、作者はあえて両者を融合させてストーリーを進め、女性ならではの強さをテーマとして打ち出したのである。
ライターの結城真理は母・智子の友人で服飾学校の校長を務めている松村弘子から唐突な仕事の依頼を受ける。智子は母、つまり真理の祖母の遺品に含まれていた古い女性物スーツに特別の執着を持っており、これがいかなる類いの服なのか調べるためフランスへ行く準備をしている。その旅行に真理も同行してほしいという依頼だ。智子と真理は長年不仲の関係を続けているのだが、それを知っていて同行を頼んでいるようだった。ぎくしゃくした調子で母と娘は飛行機に乗るのだが…。物語が進むに連れ前述したようにシャネルの人物像が浮かび上がってくる。美の追求も戦争に対する抵抗の一つだと思わせる小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『この世の偽善』(金美齢・曽野綾子/PHP研究所・1050円)
「日本人は人生の基本を忘れてしまった!」
歯に衣着せぬ物言いの2人による痛快対談。なぜ生活保護者がこんなに多いのか? 己の不遇を社会や時代のせいにして、自身の力を磨かなくなった日本人の自己愛、怠惰を叱る。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
桜の季節を迎えると、GWの旅行を計画し始める読者も少なくないだろう。
5月の旅行といえば、ようやく花が満開となる北海道がいい。すでに旅行雑誌などでは北の国の特集も組まれている。
月刊誌『poroco』(コスモメディア/420円)は最大の都市・札幌のタウンガイドだ。グルメを中心とした記事が毎号50ページほどの特集で紹介されており、北海道旅行の拠点として札幌を歩く際に重宝する。
4月号では「さっぽろ駅&大通」をMAP付きで解説。札幌駅の駅ビル・JRタワーが誕生10周年を迎え、新規出店も多いらしい。それに伴い大通もリニューアルが進んでいるようで、そうした最新情報が網羅されている。発行元が地元資本の企業だけあって、全国誌よりもキメ細かい案内が役に立つ。
札幌在住の人たちだけにとどまらず、日本中に愛読者がいるという。地方の確かな息吹を感じる雑誌だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意