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出てこい! ニッポン埋蔵金 発掘最前線(17)

 埋蔵金研究の第一人者が情報を一切公開せず、自分の手で掘り当ててやろうと狙いを定めていたターゲット−−。それが群馬県の永井という宿場跡に隠されたとみられる徳川幕府御用金の一部だった。
 畠山清行氏は、江戸の金座にあった約20万両の金の半分ほどが、新政府軍に接収される前に運び出されたことを突き止めていた。その隠し場所として選ばれたのが永井ではないか。骨董価値で推定約200億円!
 ところが、永井には他に四つの黄金伝説があった。本陣の隠し財産、佐渡から江戸へ運ばれる途中に紛失した御用金など。本陣の蔵の裏から集落の背後の山へ向かって掘られた横穴があるのがわかっていて、そこが怪しい。出入り口は見当たらず、中は未知の世界だ。
 「エル・ドラドなんだよ、ここは」
 黄金郷…。物語の中にしか出てこない妖しい響きの言葉が、大先生の口から発せられると、急に現実味を帯びて聞こえた。数週間前には地名さえ知らなかった永井が、もうすぐ世界中に知れ渡ることになる…。そんなことを夢想しながら、われわれの永井通いが始まった。

 上野から上越線に乗り、後閑駅で降りて、猿ヶ京までは路線バス。そこからはタクシーで10分弱で目的地だ。『越路』という名の民宿が発掘の最前線基地で、現場はそこから50メートルも離れていない畑の真ん中。縦穴を8メートルほど掘り下ろせば、横穴にぶつかるだろうという計算だった。
 民宿で顔を合わせたのが、畠山氏のパートナーで、本件のスポンサーでもある仲元虎斉氏だ(前回登場)。台湾で126キロの金塊を掘り当てた実績のある仲元氏は、もともと土木工学の専門家で、ここでも工事の指揮を執り、われわれはそれに従った。

 永井は標高800メートル。11月初旬には雪が降り始める。その前に決着をつけなければならないので、10月に入ると毎週末通って縦穴を掘り続けた。しかし、目標の8メートルまで掘っても一向に穴が開く様子はなく、ついに12メートルに達したところで、畠山氏が終了の決断を下した。すでに11月に入っていた。
 われわれは落胆しながらも、次の手を考えていた。以前穴が開いたところの近く、つまり、国道17号のすぐ脇を掘ればよい。だが、大型トラックがひっきりなしに走るところで、そんなことができるだろうか。

 畠山氏の執念は、筆者が考えていた以上だった。無理だと思っていた建設省の許可を『永井史跡学術調査団』名義で取り付けたのだ。
 その畠山氏も、最初は徳川の埋蔵金の信ぴょう性に疑問を抱いていたという。深く調べていく過程で、次第に実在を確信するようになってきたのである。
 特に、昭和の初めまで存命だった江戸城内の御金蔵番2人を捜し当て、証言を得たことは最大の功績だろう。彼らは、夜な夜な御用金を少しずつ運び出し、人目を避けて両国にあった御竹蔵という幕府の建築資材置き場まで運んでいたというのだ。

 御竹蔵は隅田川に面していた。御用金を舟で上州へ運んだとすれば、そのルート上にある。この証言は、徳川の埋蔵金の信ぴょう性をほぼ揺るぎないものにする傍証の一つだ。畠山氏も自信があったから、あるとき雑誌の企画で、日本歴史学会会長の高柳光寿博士との対談に臨んだ。高柳博士は、徳川の埋蔵金なんてあるはずがないと言い、大激論になったそうだ。
 「論争に負けたつもりはないけど、出して見せないと勝ちにはならないからね」
 畠山氏がそう言って唇を噛みしめたときの様子がまぶたに浮かんでくる。

 翌年の盛夏、国道脇に縦穴を掘り下ろし、建設省の中止勧告を無視して、道路に向かって壁を削ったところでついに横穴が現れた。
 横穴さえ見つかれば、必ずお宝が手に入ると信じていたから、その瞬間は涙が出るほど嬉しかった。ところが、高さ1.6メートル、幅約60センチ、総延長約90メートルの横穴のどこにもお宝は見当たらない。しかも、焦った建設省が2週間後にトラック3台分の砂利で、せっかく開いた入り口を埋めてしまった。その時点で、否応なしに調査に終止符が打たれることとなった。

 落胆もあったのだろう、その後、畠山氏は体調を崩して入退院を繰り返し、1991年(平成3年)に85歳で亡くなった。永井の発掘以後はほとんど没交渉だったから、訃報は新聞で知った。
 「ボクの跡継ぎは君だな」
 永井の発掘が終盤に近づいたころ、民宿『越路』の一室で、筆者は畠山氏からそう指名された。それから36年、まだまだ到底及ばないが、それを目指して調査と研究を続けている。

トレジャーハンター・八重野充弘
(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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