奇跡的な逆転優勝をやってのけて日本中を沸かせた横綱2場所目となる稀勢の里だったが、先場所痛めた左肩の不安はそのまま悪い方に的中した。
その稀勢の里は場所前、慌ただしい毎日を過ごしていた。先代師匠(元横綱隆の里)の時には「ほかの力士と馴れ合いを生む」と厳しく禁じられていた出稽古を、なんと5日間も連続して敢行したのだ。
「それだけ、左肩の不安が大きかったということでしょう。なにしろ、およそ1カ月の春巡業を全部休み、ほとんどぶっつけ本番の状態でしたから。土俵内でもおそるおそるといった感じ。最初は十両力士が相手でしたが、最後にようやく三役の嘉風や琴奨菊らとやれるようになりました。ただし、稽古と本場所は違います。稀勢の里は、『自分の中ではいい感じに仕上がった』と話していましたが、いまだ手探りの状態というのが正直なところじゃないでしょうか」(大相撲担当記者)
出稽古に行けば、当然のことながら相手にも手の内を探られる。稀勢の里の稽古を実際に見た関係者からは様々な声が上がった。
「(先場所のような)万全な状態にはほど遠い。休むという手もある」
こうため息をついたのは、元横綱でNHK解説者の北の富士さんだ。
また、二所ノ関一門の連合稽古でバッティングし、稽古を断られた白鵬も、
「完全でないのは確かだね。勝った相撲も(左を使ってまともに攻めず、横に)イナしているから」
と、不安視した。
大きなハンデを背負っていることは明白だ。だからこそ、初日の3日前というギリギリの段階まで出場を明言しなかったのだろう。
現師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)は11日朝、稀勢の里と話し合って「休場はしない。出場することを決めた」と明かし、その理由を次のように話した。
「(結果は)やってみないと分からないけど、(稀勢の里は)相撲に対していつも一生懸命。真摯(しんし)に横綱の立場を受け止めてやってくれている」
稀勢の里に“休む”ということを選ばせなかった「綱の重さ」は察するに余りある。
場所中、懸かった懸賞は未曾有の600本以上。中途半端な成績ではスポンサーも納得しないだろう。出るも地獄、休むも地獄。黒星スタートとなった今場所、左肩にテーピングしながら土俵上に立つその姿が痛々しい。