『六白金星・可能性の文学 他十一篇』(織田作之助/岩波文庫 840円)
織田作之助は1913年=大正2年に生まれた。今年は生誕百年の年なので、彼の業績をあらためて称える動きが出ているようだ。7月に岩波文庫から『夫婦善哉 正続 他十二篇』という本が出た。生前、彼が残した作品群から、ベストなものを選んで集めた短篇集である。表題作「夫婦善哉」と「続 夫婦善哉」が原作の連続ドラマが8月からNHKで放送されている。夫役は森山未來、妻役は尾野真知子だ。河出書房新社からは、織田作之助という作家の全貌に迫ろうとする研究本も出た。
本書は2009年に出たもので、生誕百年に合わせて刊行されたわけではない。しかし、織田作之助、通称オダサクの魅力を最もコンパクトに、そして深く知るには本書が最適ではないか、と思う。前掲の『夫婦善哉 正続 他十二篇』と同様、ベスト・セレクトの短篇集なのだけれど、評論も二つ入っているのである。「二流文楽論」と「可能性の文学」だ。小説ではない、評論という形の文章を読むと、この作家が存命中にやりたかったこと、強い意志が伝わって来るのだ。
第2次大戦終結後、旺盛な創作活動で一躍時代の寵児になった作家である。坂口安吾、太宰治、石川淳らとともに無頼派といわれたりもした。「可能性の文学」では、当時の大家と評価されていた文章家を痛烈に批判している。文学におけるパンクを体現したのがオダサクなのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『江戸版 親父の小言』(小泉吉永/大空社・525円)
「人に馬鹿にされていろ」「女房の言う事半分聞け」など、全国各地の土産物屋で売られている湯飲みや掛け軸、プレートで目にする『親父の小言』。先ごろ、そのルーツと思われる江戸時代の本が発見された。影印(原寸)で復元された本書を一家に1冊、ぜひ!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ベースボールマガジン社が分冊刊行している『月刊 長嶋茂雄』(1200円)。最新号は4号目の配巻で、1960年、デビュー3年目のミスターの活躍を「マンスリー長嶋茂雄」と題し、シーズンの4〜10月まで、月ごとに紹介している。
3年目の長嶋といえば2年連続の首位打者に輝いた他、これも2年連続の開幕戦ホームラン、4月には珍しくショートへの守備について話題になるなど、一挙手一投足がファンの注目を集めた年として記憶されている。前年の'59年、伝説の天覧試合サヨナラ本塁打によって名実ともにスーパースターの称号を得た背番号「3」の躍動する姿が、秘蔵の写真で鮮やかにプレイバックされ、オールドファンにはたまらない1冊だ。
亡き石原裕次郎との昭和のヒーロー同士の対談や、当時の長嶋語録、守備の名手・長嶋の魅力紹介なども掲載。毎号特製ピンナップとベースボールカード2枚が付録の永久保存版だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意