『百年法』(上・下)(山田宗樹/角川書店 1890円)
老いない人間はいない。死なない人間もいない。しかし、それを仕方のないこと、と平常心を保って受け入れることができる人はあまり多くないだろう。
本作『百年法』は今年4月に第66回日本推理作家協会賞を得たSF大作である。まさしく不老不死をテーマにしている。物語は2048年から始まる。舞台となるのは日本共和国だ。実際の今現在の日本と似ているようで異なる架空の設定である。アメリカで優れた研究者の尽力によりヒト不老化ウイルス=HAVが誕生したのは20世紀のこと。このウイルスを接種する技術=HAVIが開発されたが、接種後百年経った者は国によって安楽死の処置を受けなければいけないという生存制限法、いわゆる百年法が成立した。日本共和国はHAVIと百年法の両方をアメリカから導入した。2048年、百年法がいよいよ初めて施行されることになった。しかし、いざそうなると、安楽死なんてとんでもない、もっと生きていたいと国民の圧倒的多数が思う。国は混乱の一途をたどっていくが…。
登場人物たちは死というものについて真剣に悩むことになる。不老不死は本当に理想的な状態なのか、老いて死を迎えることの方が自然にかなったことではないか、と思う者も出てくる。現実離れしている設定ながら、実は現実の私たちに哲学的命題を問うてくる深い小説である。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『中高年正社員が危ない』(鈴木剛/小学館・735円)
「追い出し部屋」や、「業務改善計画」の名のもとに行われている解雇など、中高年を中心とした正社員の雇用が揺れている。高止まりしている自殺者の数も、これらの不安定化と無関係ではない。雇用危機に直面している社員の実態をリポートした衝撃の1冊!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
奇数月に発売されるペット誌『Shi-Ba』(辰巳出版/980円)は、柴犬だけを取り上げた日本で唯一の専門誌。最も犬らしい犬として多くの日本人に愛される柴犬を、数多くの実例をもとに紹介している。「柴犬の中年力」と題された記事では、熟年に達した犬ならではの行動や魅力を分析し、同類他誌にはない切り口で記事を作成していて個性的だ。
他にも、妙にきれい好きなところが日本人に好まれる柴犬の生態であると解説したり、犬の視点で考える大胆な家のリフォーム論など、従来のペット愛玩誌にとらわれない斬新なアイデアが面白い。
圧倒的な飼育頭数を誇るといわれる生粋の日本犬・柴は、確かに町を歩いていてもよく目にする。また、熟年夫婦がペット同伴で旅行に出掛けるときに、お伴として同行することが多いのも柴犬らしい。
誌面いっぱいに満載の、いかにも従順で賢そうな姿に癒されること間違いなし。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意