1999年、石原慎太郎東京都知事(当時)は、就任後間もないころの記者会見で、真っ黒なススの入った500ミリリットルのペットボトルを振りかざし、大声で怒鳴り散らした。
「東京で排出される粉塵の量が、1日にコレ12万本分にも達するんだよ!」
そのころ、ディーゼル車は主に商業がメーンだった。うっかり信号待ちで後ろにつこうものなら、発進時に黙々と黒煙を吐かれ、一瞬視界が奪われるほど劣悪だったことが思い出される。
石原氏のこのパフォーマンスが強烈だったためか『ディーゼル車=悪』のイメージはあっという間に定着し、それ以降、国内市場での販売台数は0.1%以下まで落ち込んでしまった…。とはいえ、最近起こった中国の大気汚染問題を見るに、その原因の一つといわれる自動車の排気ガスに対する規制は、やはり必要だと痛感させられたのも事実だ。
ところが、その消えかかっていたディーゼル車が、実は今にわかに脚光を浴びている。ハイブリッドカーや電気自動車に続く次世代エコエンジン車として、俄然注目されているのだ。
「排気ガスが環境に悪い、ビリビリと振動が気になる、パワーがない等々、かつてのディーゼルエンジンに対するイメージはマイナスなものばかりでした。ところが昨年2月にマツダの『CX-5』が発売されて以降、一気に市場にディーゼル車が普及し始めました。この車は『クリーンディーゼルエンジン』を搭載しており、以前のエンジンに比べて振動も少なく燃費もいい。発売後、その評価はうなぎ上りで、昨年末の段階ですでに当初の販売目標の3年分を受注してしまいました。また、11月には同じエンジンを搭載する新型『アテンザ』も登場し、こちらも発売後、たった1カ月で7カ月分超の受注を集めました。まさに次世代エコカーの台風の目になっているのです」(自動車雑誌ライター)
何ともスゴい売れ行きだが、ディーゼル車というと、トラックやバスのイメージが強く、本当に乗用車としての快適性があるのだろうかと思ってしまう。そこで、都内のディーラーに足を運び、実際に試乗車を運転して最新ディーゼルの完成度を確かめてみた。
試乗したのはマツダ『CX-5』2.2リットル直噴ディーゼルターボ。まず驚いたのはその加速性能だ。1.6トンの車重を感じさせないほど強力で、同じマツダの軽量オープンスポーツカー『ロードスター』以上に速い。アクセルを軽く踏み込むと、1000回転という低回転からモリモリとトルクが膨らみ、パワーバンドは4000回転超まで続く。一般的なディーゼル車は2000〜3000回転が常用域なので、5000回転以上も回るディーゼルエンジンなんて、それだけで驚きだ。
付きものだった“カラカラ音”は、アイドル付近からは微かに聞こえるものの、走り出してしまえば全くといっていいほど聞こえない。よほど車に詳しい人が注意しない限り、ほとんどの人がディーゼル車とは気が付かないだろう。
さらには42.8重量キログラムもの大トルクがグイグイと車体を引っ張り、上り坂でもお構いなしに加速する。この最大トルクは、ガソリンエンジン車であれば4.2リットル級のエンジンでないと出せない数値。これがたったの2.2リットルディーゼルエンジンがたたき出しているのだから、そのパワフルな走りも想像できるのではないだろうか。