馳 ITバブルのころは、『不夜城』などの小説が売れて“個人バブラー”なんて周りから言われ、銀座や六本木で遊びまくってました(笑)。でも、今は軽井沢に住んでいますし、夜遊びもしなくなった。また、お金はあるに越したことはないけど、お金を稼ぐために自分を殺し過ぎてもつまらない人生だと思うようになりましたね。
−−当時は、そうした現象をどう見ていましたか?
馳 六本木で、たまにITで儲けたオタク風の小銭稼いでいる若造を見掛けましたけど、派手に金を使っただけのダサい遊びをしているなと見ていました。一方の'80年代末のバブル期は、同時代を生きてはいたけど、その恩恵にはあずかれず、タクシーがつかまらないくらいしか思い出がないんですよ。
−−今作は『生誕祭』の続編になるのですか?
馳 明確に続編を書くという意識はなかったのですが続編になりますね。ITバブルでは、M&A(企業の合併買収)を繰り返し、実態以上に会社を大きくし、株価でもうけるという手法が横行していた。これをストーリーの中心にし、『生誕祭』の登場人物を配置したので。そのころ僕はすでにインターネットには触れていて、世の中がどんなふうになっているのかは皮膚感覚としてわかっていましたから、前回のバブルは土地で、今回は株価と、同じようなことが起こっているなと。でもどうせいつかバブルははじけるだろうと。それにしても、安倍首相のアベノミクスを見ても、日本人はバブルのことが忘れられないんだなとつくづく思いますよ。あれだけ簡単にお金を稼げる時代を実体験として知っている40代以上の人たちにとっては麻薬のような刺激だったんじゃないですか。
−−当時を知る人は、さらに楽しめますし、若い人にはこんな時代もあったと。
馳 僕は誰かに向けて書いていないんです。小説家だけでなく、画家などもそうだと思いますが、基本は誰かに向けて書くのではなく、自分の内側から出てくるものを表現し、自分が面白いと思うものを書けばいいと思っているので。もちろん、純文学ではなくエンターテインメントですから、読者をリードするためのさまざまなテクニックはあります。
−−今作のさらに続編を期待する声もあるようですが。
馳 次作はアベノミクスをテーマにしましょうか(笑)。
(聞き手:本多カツヒロ)
馳星周(はせ せいしゅう)
1965年、北海道生まれ。横浜市立大学卒。'96年『不夜城』で小説家デビュー。著書に『漂流街』(徳間書店/第1回大藪春彦賞)など多数。