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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第358回 国債発行=政府貨幣発行

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提供:週刊実話

 第355回「狂気のシミュレーション」で解説したが、内閣府(≒財務省)は1月17日の中長期の財政試算のシミュレーションにおいて、
「PB黒字化を達成するために、家計の黒字(資金過剰)を削減する」

 ことを目標として設定した。今後、具体的な政策とし消費税「再」増税、社会保障支出削減、社会保障負担増と、国民(家計)に負担を強いる貧困化政策を推進してくると書いた。

 社会保障負担については、安倍総理大臣が施政方針演説において、
「75歳以上であっても一定以上の所得がある方には、窓口での2割負担を新たにお願いすることを検討します。併せて、かかりつけ医機能の強化を図るため、大病院の受診に定額負担を求めることで、現役世代の負担上昇を抑えます」

 と演説し、現役世代の高齢者に対するルサンチマンを煽り、国民同士を対立させる手法で窓口負担の引き上げを図ることを表明している。

 消費税は、2020年6月30日にキャッシュレス決済のポイント還元が終了し、再増税となるわけだが、さらなる税率引き上げの動きもそろそろ始まると思っていたところ、予想通りやって来た。

 元財務官の古沢満宏氏が副専務理事を務め、多くの財務官僚が出向しているIMF(国際通貨基金)が、2月10日、日本経済に関する年次審査報告書を公表。新型コロナウイルスによる肺炎感染の拡大を「新たな景気へのリスク」とし、さらに高齢化による社会保障費増大により、日本の財政悪化が深刻になるとの懸念を示し、消費税率を’30年までに段階的に15%へ引き上げるよう提言したのである。新型コロナウイルスという「不幸」までをも緊縮財政のために活用する。邪な財務官僚の本領発揮、というところだ。

 IMFの提言をファンファーレに、今後の我が国では消費税「再」増税が政治的課題になることは確実だ。増税プロパガンダに打ち勝つため、本項では「国債発行=政府貨幣発行」であるという真実について解説しておきたい。ちなみに「国債発行=政府貨幣発行」となるのは、我が国の国債が100%日本円建てであるためだ。外貨建て、あるいは共通通貨建て国債は、普通にデフォルト(財政破綻)の可能性があるので、念のため。

 さて、政府が国債を発行し、市中銀行から借り入れるのは「日銀当座預金」であり、我々の銀行預金ではない。例えば、政府が1000億円の国債を発行し、借り入れた日銀当座預金を「担保」に交通インフラ整備の支出をしたとしよう(我々は日銀に口座を持っていないため、日銀当座預金での支払いはできない)。

 A企業が政府の公共事業を受注し、1000億円の交通インフラを建設した。政府は、A企業が口座を持つ市中銀行のB銀行に支払いを指示。B銀行はA企業の預金口座の残高(お預かり金額)を1000億円増やす(キーボードを打つだけだ)。その後、B銀行と政府との間で、1000億円の日銀当座預金を用いた決済が行われる(日銀が、政府の日銀当座預金残高を1000億円減らし、B銀行の口座残高を同額増やす。やはり、キーボードを打つだけ)。

 A企業は、B銀行に保有する口座で増えた1000億円の銀行預金を、従業員(家計)への給与支払いや、下請けへの代金支払いに使う。一連のプロセスを経て、
「政府の国債発行により、国民の貨幣(銀行預金)が増えた」
 ことが確認できる。

 ちなみに、政府が発行した借用証書(国債)が気になるならば、日本銀行が1000億円の日銀当座預金を発行し(しつこいが、キーボードを打つだけ)、買い上げてしまえば話は終わってしまう。つまりは、政府の国債発行により国民に貨幣が増え、さらに政府の実質的な「借金返済負担」は生じない。

 逆のケースを考えてみよう。政府が負債(国債)を返済するケースである。政府が1000億円分、我々から「税金」として銀行預金を吸い上げる。その上で、政府が1000億円の日銀当座預金を、国債を保有している市中銀行に振り込む(日銀が政府の日銀当座預金を1000億円減らし、市中銀行の日銀当座預金を同額増やす)。結果、国債がジュッと消滅することになるが、一連のプロセスにより、我々の銀行預金が1000億円消えてしまう。

 政府が現在のおよそ1000兆円の国債発行残高を「半分」にするケースを考えてみよう。国民から増税(及び社会保障支出など削減)で500兆円を奪い取り、国債を償還する。当たり前だが、我々が銀行に保有している銀行預金という貨幣が、500兆円消滅することになる。我々は国債発行残高の半減と引き換えに、一人当たり約400万円の財産(預金)を失うことになるわけだ。

 国民の貧困化と引き換えに、過去に発行した貨幣を奪い取り、国債発行残高を半減させる。国民貧困化以外に、果たして何か意味があるのだろうか。

 結局のところ、我々が政府の国債発行という「貨幣発行」について、まるで「自分の借金が増える」ことのように受け止めてしまう「間違い」が、財務省主導の緊縮財政の背中を押しているのだ。いい加減に日本国民は、国債発行残高が積み上がったところで、それが「自国通貨建て」である限り、単に国民(※企業含む)に提供された貨幣が増えただけであるという「真実」を理解しなければならない。

 無論、経済が高インフレ基調にあるならば、政府が国債発行=貨幣発行をあまりにも膨張させ、インフレ率をさらに高騰させると、国民経済にダメージが及ぶ。とはいえ、現在の日本はいまだにデフレーションが継続し、さらには少々インフレになったところで、企業の設備投資意欲が高まり、供給能力が引き上げられることでもインフレ率は低下方向に向かう。

 今後、財務省の「消費税再増税」キャンペーンが展開されるのは確実だ。なにしろ、IMFを使った財務省お得意のプロパガンダは、すでに始まっている。「次なる消費税増税」の前に、国民は、
「国の借金とやらは、政府の貨幣発行残高である」
「政府が国債を返済すると、国民の預金が減る」

 といった真実を共有することができるのか。そして、消費税廃止という正しい政策を実現できるのか。

 情報の間違いが、我々を追い詰めつつあるという現実を知って欲しい。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。a

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