『満開の栗の木』(カーリン・アルヴテーゲン/柳沢由実子=訳/小学館文庫 860円)
今、アメリカ、イギリス、フランスといったメジャーな国に日本人の多くが興味を持たなくなっているのは、うれしいことかもしれない。
この世の中心はどこにもない、のである。
広い地球上では、無数の人々が自分のことを中心と思っているわけで、実際のところ国籍など関係ない。
とはいえ、全く他の国に興味を持たない、というのは味気ない。従来、メジャーと思われていなかった国に対する興味を持つのも楽しいものだ。
そう、つまりはどこそこが中心であるなどという思い込みは持たないで、いろんな国の人に対する興味を持てれば、気分は変わる。
アフリカはいいだろう。そして北欧も。
本書はスウェーデンの女性作家が書いた、とても繊細でフレキシブルな小説である。離婚をして、娘と二人暮らしをしている女性が主人公と言っていいだろう。彼女は孤独を実感しつつ、ホテルの代表者としてがんばって仕事をし、生きている。そこに、やはり、孤独を抱えた中年の男がやって来て宿泊客になる。女と男は、何かしら気持ちの触れ合いを感じていくのである。
こういう繊細な情の触れ合いを書ける日本人作家はいるのだろうか、と思う。いないかもしれない。
本書は、北ヨーロッパならではの風景や情の通い合いを味わうことができる小説である。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『昭和歌謡1945〜1989 歌謡曲黄金時代のラブソングと日本人』(平尾昌晃/廣済堂新書・840円)
昭和歌謡を代表する作曲家・歌手である著者が「リンゴの唄」から「川の流れのように」まで昭和の大ヒット曲を取り上げ、それぞれの魅力、時代背景、秘話、カラオケ・ワンポイントレッスン等を語り尽くす。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
小学校高学年から中1の読者を対象に社会科・時事問題を解説した雑誌『月刊ニュースがわかる』(毎日新聞社/330円)は、オールカラーで図版やイラストをふんだんに使用した“子供向け”というキャッチフレーズだが、あなどるなかれ、十分にオトナの読書に値する内容だ。
11月号に掲載されている時事問題は、まず「シリア問題」。シリアが使用したといわれる化学兵器を、果たして正確に説明できるオトナがどれだけいるだろうか。
「日本食」をテーマとしたページでは、和食の作法を解説。日本人の伝統的食文化をユネスコ無形文化遺産に登録申請した動きを受けた記事で、そういえば和食の作法やその作法が持つ意味など、ほとんどの人が知らないだろう。
中学・高校受験のお子さんを持つ家庭が試験対策として購読している例もあるらしいが、今さら聞けない常識をオトナが知るテキストとしても面白く読むことができるのだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意