初登場は約25年前の2月2日。突然「タケちゃんマン」コーナーに現れた謎のビンボーダンサー、マネー島崎がオリジナル。「アダモステ〜ペイ!」という叫び声が、そのまま名称となった。
「アダモちゃんに限らず、ひとつのキャラを何十年も続けていられるのは大きいし、嬉しい。それだけ世間の認知度が高いわけだから。それにDVDなんてビジネスにならないと出せないでしょう。現役である証ですよ」
過去にVHSビデオで出たことはあったが、それは「ひょうきん族」としてのもので、あくまで登場人物の一人に過ぎなかった。それが今回はソロ、しかも放送時には影も形もなかったDVD。そのうれしさもあるという。
「当時リアルタイムで見ていた世代には懐かしいでしょうね。でも、最近の子供たちは『ひょうきん族』とは無関係に、ひとつのキャラとして理屈抜きで見てます。昨年フジテレビ『27時間テレビ』の『懺悔(ざんげ)室』で久々にアダモちゃんの格好で水をかけられたんですが、これも視聴率が取れるからこそ」
ただ、本人は25年もやるとは思っていなかった。あくまで『ひょうきん族』ありき、番組が終われば同時にアダモちゃんも終わり、それが筋だと。
「『ひょうきん族』終了後に別の局でリポーターをやったとき、若いADが“つかみはアダモちゃんでお願いします”って言うわけですよ。番組が終わった以上やらないのがモラルだから、三宅(恵介)さん(『ひょうきん族』二代目プロデューサー)に相談に行きましたよ。そしたら“気にするな、どんどんやってよ”って(笑)。大らかというか、感謝しましたね。これで『ひょうきん族』と関係なく演じられるようになったんです」
そのおかげでアダモちゃんというキャラが次第に一人歩きを始め、さまざまなテレビ番組に姿を現すようになっていった。
「番組の作り手に“好奇心で見てみたい”人が多かったんです。でも“なぜここ?”って無理やり感があったり、さすがに疑問に思ったこともあります。でも実際にやってみたら“初めて見て感動した”なんて言われて、うれしくて(笑)。まったく偶然の積み重ね。テレビ人だけじゃなく世間一般からも好感を持たれていることを実感しました。それもアダモちゃんがおもしろいキャラだからこそ。計算や打算を一切していないから逆によかったんでしょうね」
このDVDには1万台もの監視カメラが捉えた秘蔵映像が収録されている。例えばコンビニで強盗と鉢合わせしたり、スーパーで万引き主婦を捕まえたり、家族が撮影したホームビデオに写りこんでいたり。最初は単に“アダモちゃんで何か作ろう”という企画だった。そこに“お笑い界の奇才”マッコイ斎藤監督が「謎の生態を監視カメラで追おう」と提案し、内容が決定した。
「アダモちゃんは人を喜ばすキャラだけに、監視カメラなんて最初はイメージが沸かなかったですよ。でも、いろいろ提案されるうち“掌の上で踊らされてみよう”って思えてきて。ただ、現場では何でもないようなことをやらされるので“これで面白いの?”って疑心暗鬼になりました。それが編集されてナレーションがついて、映像が完成て初めて”なるほど“と意図が分かる。この編集やナレーションがまた、どんどん最後まで惹きつけるように工夫されている。いい意味で彼に遊ばれたって感じですね」
一番うれしかった出来事は、小学生の子供が友達を家に呼んでコッソリ見ていたときのことだ。
「僕が帰宅したら子供たちが異様に盛り上がっていて。どうだった? って聞いたら爆笑しました、面白かったって興奮したように言うんだね。子供って理屈抜きで単純、素直でしょ。自信になりました」
ロケに要した時間は延べ4日間ほど。一気に撮り上げた格好だ。
「まだ春じゃなかった…というより、真冬(笑)。素っ裸だし屋外ロケも多くて、どのシーンもすごく寒かったなぁ。ものすごく体調管理に気を使いました。風邪や高熱じゃ、いいアダモちゃんを演じられませんから(笑)」
原口あきまさとスザンヌがゲストで出演。さらに“永遠のライバル”ダチョウ倶楽部との決闘シーンが30分もノーカットで収録されている。
「原口君とスザンヌは事務所の後輩なので、華を添えてくれとお願いしました。ただ、スザンヌはバラエティータレントではあってもお笑い芸人ではないですからねぇ。エーッとは思ったかも知れませんが、先輩の頼みですから…(笑)。ダチョウは僕のたっての希望です。彼らの体を張った芸に好感を持ってるし、とても好きだし共鳴もしている。だからこそ理屈抜きで思いっきり馬鹿馬鹿しいシーンを撮りたかった。でも久々に体を張ったなぁ、へヴィでハードでした。最後は息が上がって立ち上がれない、しゃべれない。年をとったなぁと実感しました。まあ、向こうも上がってたけど(笑)。ただ、お互いスピリッツは変わらない…それだけは確かですよ」
今や活動の舞台はお笑いだけでなく、ドラマや演劇、リポーターと幅広い。でも今はDVDの宣伝に全力投球中という。
「とりあえず出したからいいや…なんて決して思いません。やるんならトコトンやらなきゃつまらない。何かひとつでも収穫があるまでがんばろう…そこまで賭けてます。プロモーションを通じて何らかの形で広がりが出てくれば。例えば携帯の着ボイス、いいですよ。電車で鳴ると必ず周囲は振り返ってニヤリ、クスリとしますから。以前からアダモちゃんのキャラが向いてるなとは思ってたけど。放送時は携帯なんてなかったわけだし、昔のアダモちゃんと進化した現代文明のコラボだと思いますね(笑)」
アダモちゃんとは偉大なマンネリかも知れない。だが、仕掛け方次第では新たな需要が生まれる期待もあると語る。
「だからこそDVDは最低限“ペイ”したい(笑)。1円でも利益を出せれば第2弾が出せるから。内容は検討中…というか、何もない(笑)。でも何かしらあるもんです。何十年もネタを作り続けてきたんですから。ヒップアップ時代、いろんな青春ネタを作り続けていくうちにネタが尽きちゃった。どんどん次を要求されるのに、こっちはとっくに飽きている。そんなとき横沢(彪)さん(『ひょうきん族』初代プロデューサー)から“お前たちが飽きたときこそ世間はピーク、その時差を知れ”って言われて。おかげで、学園ドラマのパロディという固定観念から発想を転換し、水戸黄門やマサイ族の青春なんてネタを何十個も作ることができた。『必要は発明の母』とは、よくぞ言ったもんです(笑)」
リアルタイムの親世代も、知らない子供たちも、どちらが見ても楽しめるDVDだと力を込める。
「ただ、いくら僕が面白いと言っても実際に見てもらわない限り分かってもらえません。4000円弱…結構高いと思います。でも、実際に見たら決して高いとは思わせないだけの自信もあります。世の中に若い芸人たちの笑いがあふれている今だからこそ、お約束のキャラが演じる懐かしいのに新鮮な笑いが受け入れられるんじゃないでしょうか」
<プロフィール>
しまざき としろう
1955年3月18日、京都府生まれ。クレイジーキャッツの付き人を務めた後、79年コントトリオ「ヒップアップ」結成。80年「笑ってる場合ですよ」の「お笑い君こそスターだ」で勝ち抜き人気上昇。「オレたちひょうきん族」「天才たけしの元気がでるテレビ」で活躍。趣味はサッカー、ゴルフ、競馬。