しかし、2019年9月の国税庁の発表によれば、女性の平均年収は293万円(男性は545万円)、非正規雇用者にいたっては154万1000円(男性は236万円)。女性の非正規雇用率は55・5%(総務省調べ)と過半数を超えており、単身女性の3人に1人が平均的所得の半分を下回る「相対的貧困」状態にあるとされている。
それを象徴する3人の貧困女子のエピソードを紹介しよう。
1人目に紹介するのは、ネイルの専門学校に通いながら、フリーペーパーの広告営業の仕事をしている有村紗耶香さん(仮名、23歳)。給料は手取り21万円だが、家賃、光熱費もろもろで10万円、専門学校の授業料8万円を引かれ、さらに訳あって毎月3万円を弁護士費用の返済にあてており、手元に残る金はほとんどない。
彼女が東北の実家から上京してきたのは5年前。実家は貧乏だったため早くから自立を迫られ、高校卒業後は東京のキャバクラで働き始めた。
「地元で就職しようにも仕事がなかったし、手っ取り早く稼ぐにはこれしかないと思ったんです。それまで水商売は経験ありませんでしたが、風俗で体を売るよりかは断然マシ。周りの友達も普通にキャバで働いていたので、そこまで抵抗はなかったですね。東京のお店にはすぐに慣れました」
店に在籍して半年後、1人の男性客との出会いから、彼女の人生は激変する。
「その人はIT関係の仕事をしている30代半ばの男性。初めてお店に来てくれたときから、ドリンクをたくさん飲ませてくれたし、シャンパンも入れてくれたりと、とても羽振りがよかったんです。週に1回は必ずお店に来て私を指名してくれるので、次第にプライベートの時間でも会うようになり、その度に5万円程度のお小遣いも貰っていました」
その後、彼女はこのまま水商売を続けることに将来への不安を感じ、夜の仕事から上がることを決意。広告営業の昼職を始め、かねてより憧れだったネイルサロンを開業するべく、ネイルの専門学校にも通い始めるようになった。
キャバクラを辞めた後もその太客とは連絡をとっていたが、仕事と学校の両立に忙殺される中で執拗に遊びに誘ってくるため、次第に嫌悪感を抱くようになっていったという。
「最初はLINEもちゃんと返信してたけど、店を辞めた後ぐらいからしつこくメッセージを送ってくるようになったから、1週間ぐらい未読スルーしていたんです。そしたらある日、仕事から帰宅したら郵便受けに盗撮画像が入っていて、その翌日には会社のパソコンのアドレスにもその画像が送られていました。画像の内容は、私が女友達と温泉旅行に行ったときの入浴中の裸の写真だったんです」
ご推察の通り、その画像を送りつけたのは太客の男だった。
「電話越しにすごい剣幕で『画像送ったのは俺だ。あれだけ金使ったんだからやらせろ!』みたいなことを言われました。どうやって自宅の住所や会社のアドレスを知ったのか不思議でしたが、とにかく全力で断りました。そしたら、彼は私のSNSアカウントまでなぜか知っていて、友達全員にDM(ダイレクトメール)を送りつけ、私の悪口をあることないこと言いふらし始めたんです」
精神的に追いつめられた彼女は、ついに「1回だけなら……」と体を差し出してしまったという。
「最初のセックスで中出しされました。それからも何度か呼び出され、結局、付き合うことになったんです。あのときの私は完全に洗脳状態でしたね。彼の束縛は激しくて、DVも酷かった。本当に殺されると思って、兄に泣きついて警察を呼んでもらい、ようやく逃げることができました。現在、彼とは民事裁判中ですが、先日、妊娠が発覚し、子どもを堕ろしたばかりです」
手っ取り早く稼げるがゆえに、貧困女子たちの受け皿となっている“夜の世界”。しかし、痴情のもつれから思わぬトラブルに発展したり、危険人物のターゲットにされ、貧困に陥るリスクもあるのだ。
★奨学金返済で強制パパ活
2人目は、北関東在住の鈴木知子さん(仮名、29歳)。総額480万円にも上る奨学金の返済に追われている。
両親が教師だったこともあり、「将来は教師か公務員になりなさい」と言われて育った知子さん。物心ついたときから勉強漬けの毎日だったため、県内トップの高校に進学できたが、苦労も絶えなかったという。
「元々頭がいいわけでもないので、すぐに高校の勉強についていけなくなりました。高校3年のときに地元の国立大学を受検するも失敗。結局、東京の中堅私大に行くことになりましたが、その頃、祖父が事業に失敗して一気に実家の家計が厳しくなったんです。両親に私立大学の学費が払えないと言われ、日本学生支援機構からの奨学金に頼らざるを得なくなりました」
知子さんの場合、両親が公務員のため、第一種(無利子)の条件に該当できず、第二種(有利子)から月10万円を借りることになった。
大学に入学すると、知子さんの人生の歯車がさらに狂い始める。
「大学には裕福な家の子たちばかりいて、何をするにしてもお金がかかりました。田舎育ちで勉強ばかりしていた私にとって、都会暮らしは誘惑だらけ。1年間で彼氏も3人ほどできてセックスを覚え、クラブやホスト遊びでお金が全然足りないので、大学2年からキャバクラのバイトを始めました。完全に昼夜逆転生活になって大学の講義もサボりがちになり、単位が足りなくて最終的に中退。怒り狂った親には勘当されました」
そして、彼女には大学中退の肩書と480万円の奨学金だけが残った。「奨学金=借金」という認識を少しでも持っていれば、未来は変わったかもしれないが、時すでに遅し……。
中退後はそのままキャバクラの仕事を続けた。
「20代前半までは店でそれなりに稼げたので、奨学金の返済も問題なかったけど、25歳ぐらいからいきなり指名が取れなくなりました。収入が全然なくて焦り、客と枕営業しまくっていたら店にバレてクビ。仕方ないから地元に戻って、住み込みのパチ屋で働くことにしました」
パチンコ店の手取りは20万円だが、寮費を引かれて奨学金返済に追われ、手元に残るのは5万円程度。それもタバコと化粧品、携帯代でなくなってしまうため、食事はほとんどカップラーメンだという。
そんな彼女に最近、さらなる試練が降りかかった。
「私立大学を卒業後、一部上場企業に入社した弟がリストラされ、弟の奨学金返済まで降りかかってきました。私の代わりに、祖父母と両親の面倒を1人で見てくれて、結婚すらままならない弟が気の毒で断れなかったんです。さすがに今の収入のままじゃ払いきれないので、最近は体の関係アリのパパ活(1回のセックスで3万円)の副業を始めました」
奨学金の呪縛から解放されるまでの道のりはまだまだ遠いようだ。
★元風俗嬢で無職のシンママ
3人目に紹介するのは、東京都内で暮らす澤村玲香さん(仮名、28歳)。6歳の息子がいるシングルマザーだ。
彼女自身も母子家庭で育った。中学3年の頃、母親が再婚して見知らぬ男が父親になり、家に居づらくなった彼女は、高校入学と同時に友達の家を転々とするようになる。
「高校ではあまり友達ができなかったから、中学の友達とばかり遊んでた。だから結局、面倒くさくなって1年で中退。それからは池袋の黒ギャルになって、毎日、サンシャイン近くのたまり場で朝まで酒飲んだり、そこで知り合ったヤンキーとホテルでセックスしてた」
そして21歳のときに妊娠。相手はナンパされて知り合ったセックスフレンドだった。
「生理がこないと思ったら妊娠4カ月。別に彼氏じゃなかったけど、一応『産みたい』って伝えたら、その日から音信不通みたいな(笑)。まあそれはともかく、出産でお金がかかるので、しょうがないから風俗で働いた。オッサンの臭いチ○ポとか咥えるのは普通に嫌だったけど、意外に平気だった」
玲香さんが勤めていたのは妊婦風俗。いわゆる幼児プレイや母乳プレイを提供する風俗店だ。
「その店は息子が3歳になるまで働き続けた。その店には私と似たような境遇のシングルマザーが多くて、待機部屋に赤ちゃんが転がってるの。客が来たら待機中の風俗嬢の誰かが赤ちゃんの面倒を見るみたいな。でも、さすがに子どもには風俗で働いているってバレたくなかったから、物心つく前に店は辞めた」
その後、母親が離婚したことを知った玲香さんは、子どもを連れて実家に戻った。
「子どもが小学校に上がって手がかからなくなってからはずっとニート。ご飯や洗濯は全部母に任せっきりで子どもの面倒も見てもらってる。母はまだ45歳だからスナックで働いていて、今はその収入20万円ちょっとで暮らしてる。私は何もしてなくて、貯金も収入もガチでゼロ。夜はもう嫌だから昼間の仕事がしたいけど、風俗や水商売しかしたことないからなかなか雇ってもらえない」
貧困は、親から子、やがて孫へと連鎖するともいわれる。貧困家庭で育った女子は、まともな教育を受けられる環境になく、性産業やパパ活で日銭を稼ぎ、父親が誰かも分からないようなシングルマザーになる確率も必然的に高くなる。
女性の貧困化がここまで進んだ理由を、ノンフィクションライターの中村淳彦氏は次のように解説する。
「貧困女子たちは国の誤った政策によって生み出された被害者です。バブル崩壊から“平成の失われた20年”で、国と企業は中高年男性たちの“正社員”というポストと企業利益だけを必死に守り続け、労働法の規制緩和(1999年と2004年)などを強引に進めた結果、非正規社員が急増して貧富の格差が拡大しました。つまり若者や女性は、貧困を押し付けられたのです」
そして、貧困化した女性たちを待ち受けていたのは、残酷なまでの自己責任論だった。
「一部の中高年男性は、今のところ優雅な自分たちの生活を崩すつもりはなく、セクハラやパワハラはいまだに日常茶飯事で、苦しむ女性を見下し、優越感に浸っています。国から十分な支援が得られず、性産業に従事せざるをえない女性たちの体をむさぼり、射精しながら『今の若者はなっていない』『日本の将来が心配だ』などと誹謗中傷を投げ続けているのです」(同)
貧困女子は日本社会が生み出した“歪み”そのものであり、ここで取り上げた女性たちのエピソードはあくまで氷山の一角。これはまぎれもなく先進国・日本での出来事だ。
分断された向こう側の世界で、貧困女子の受難、その連鎖が絶たれる日は来るのだろうか?