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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

悦楽の1冊『芭蕉という修羅』嵐山光三郎 新潮文庫刊 590円(本体価格)

★芭蕉の人脈と金脈が浮き彫りに

 TVアニメ『一休さん』は幼い頃よく見たが、あのとんち小僧が長じてのちは、応仁の乱で荒廃した京の都をさまよいつつ、はるか年下の盲目の女性を愛人にして性の喜びを大胆無比な詩に謳いあげる老境を迎えることになる…と知った時は子供心に衝撃だった。

 しかし、もっと強烈なカルチャーショックを受けたといえば中高生時分に古文・漢文の授業で教わって大抵退屈だった古典の中でも、“要するに偏屈ジジイが繰り言を垂れ流してるだけだろ?”と思い込みかけた兼好法師の『徒然草』。これが世に背を向けた閑な教養人の呟きとはとんだ大間違いで、その実体は鎌倉幕府を倒した後醍醐天皇の異母兄にあたる後二条天皇の皇子・邦良親王が、やがて即位する際の参考用に書かれた、いわば日本版『君主論』風帝王学の書だと説かれれば俄然、興奮の度合いがダイナミックに変わってくる。

『兼好凶状秘帖―徒然草殺しの硯』(’88年角川書店刊の快作だが絶版で読めぬのが残念)で、そんな吉田兼好を隠者というよりほとんど忍者、凄腕の特殊工作員のごとく描いてみせた著者が、’06年の『悪党芭蕉』以来繰り返しその実像に迫り続けるのは“俳聖”松尾芭蕉。本書はまさに探求の集大成の趣だ。

『奥の細道』の旅に同行した曾良の残した日記との照合で近年判明した通り、芭蕉の紀行文にはかなりの部分フィクションが多い。伊賀上野に生まれた金作少年が、いかにして風雅の体現者にして言葉の求道者=芭蕉になりおおせたのか。嵐山氏の厳密精緻なプロファイリング的吟味で浮かび上がるのは、「聖」のイメージとはほど遠い、そして、濃厚に立ち昇るエロス(相手は男)を匂わせる姿。芭蕉の魔性を語って汲めども尽きない。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

「伝染病」でワード検索したところ、アマゾンの公衆・衛生学カテゴリーのベストセラーとしてヒットした本がこれ。『ビジュアルパンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史』(日経ナショナル ジオグラフィック社/2600円+税)。

 新型肺炎が猛威をふるっている影響だろう。ウイルスに対して人間がいかに無防備であるかを、病原体の感染経路や収束事例などをもとに解説した書籍だ。しかも地図付きだから、例えば、中世ヨーロッパでペストがどのようなルートで広がっていったかなど、丁寧でとても分かりやすい。

 取り上げた伝染病は20種類。インフルエンザ、SARS、日本では昭和30年に根絶したといわれる天然痘をはじめ、現在もまん延するとニュースとして報道されるHIVとエイズ、梅毒など。致死率が高く危険といわれるエボラ出血熱もある。現在もアフリカのコンゴで流行が続いているという。

 感染経路もウイルスによって異なる。インフルエンザやSARSは「空気感染」、つまり空気中に漂っているウイルスが人に移る感染症だが、新型コロナウイルスは「空気感染」ではないという。では、ニュースで盛んに使われている「濃厚接触」と「空気感染」とは、どう違うのか? ―同書を読むと理解できる。

 そうすると、本当に有効な予防策も見えてくる。人類の歴史とは、伝染病とその予防、治療法の解明との戦いの歴史であったことも理解できる。正確な知識を身につけるための1冊。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 上原浩治
不屈の心 ポプラ社 1,500円(本体価格)

★雑草魂と反骨心で立ち向かっていった

――21年間の現役生活を終えてどんな心境ですか?
上原 プロ野球はキャンプも終盤を迎え、いよいよシーズンが始まります。毎年当たり前に行ってきたことをやらないというのは、なんだか変な感覚ですね。今まで「現役こそが華」という信念を持ってプレーしてきましたが、現在は21年間もプロ野球選手であり続けることができたことに、とても満足しています。今は特に「これをやりたい!」というものがないので、ゆっくり毎日をすごしています(笑)。

――日米2つのステージを経験しました。改めて巨人に復帰した時、意識の違いなどはありましたか?
上原 特に意識したことはありませんが、強いて言えば、9年間メジャーでプレーしてきたので「日本のマウンドやボールに早くなじまないとな」と思ったくらいですかね。ボールの感覚が異なるということは、当然ながら球筋にも影響してきます。私の生命線でもあるフォークボールをこれまで通りに操るためには、練習で球数を多く投げる必要があります。後は、対戦したことがない打者がほとんどだったので、そこをどう攻略していくか考える必要がありました。

――日本では200勝投手ばかりが取り上げられますが、日本人初の「トリプル100」という偉業達成は本当にすごいことです。
上原 先発、抑え、中継ぎでいずれも結果を残さなければならない「トリプル100」は、決して簡単な記録ではありません。今まで日本人では誰もやったことがないというのはうれしかったですね。特に中継ぎは厳しいポジションでした。失敗すれば先発投手の勝ち星を消してしまいますし、いつ出番が巡ってくるか分からない難しさもあります。重圧が大きい反面、スポットライトはなかなか当たりません。
 もともと、記録達成を目標にしていたわけではありませんが、ホールドがあらためて注目され、中継ぎをしている投手のちょっとした励みになれば、それなりに意味があったんじゃないかと思っています。

――過去の経験を踏まえ、これからの世代に伝えたいことはありますか?
上原 私は高校時代、主戦投手になれず、浪人して体育教師を目指していました。大学日本代表の時は、周囲は名門大学の選手ばかり。「こいつらには絶対負けない」という“雑草魂”と“反骨心”で立ち向かっていきました。やらないで後悔するよりも、やって失敗する方がいい経験になると思います。勇気を出して、さまざまなことにチャレンジしてほしいですね。
_(聞き手/程原ケン)

上原浩治(うえはら・こうじ)
1975年4月3日生まれ。大阪府出身。東海大仰星高校時代は外野手兼控え投手。’98年、ドラフト1位で巨人に入団。’08年にFA宣言でメジャー挑戦を表明。’13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇に貢献した。’18年3月9日、10年ぶりに日本球界に復帰。

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