ゴールデンウイークを前に蔵王山の噴火の可能性について、さる火山学者がこのように話し、地元では緊張が一気に高まっている。噴火警戒レベルも、火口周辺で小規模な噴火の可能性がある“レベル2”に引き上げられ、宮城・蔵王町では不安の声が相次いでいる。
「最も困るのは、噴火して地元の温泉街にも噴石が飛んできたり、溶岩流に巻き込まれるのではないかという風評被害です。この時期は稼ぎ時なので、キャンセルが相次ぐとやっていけません」(地元ホテル経営者)
ただ、別のホテル従業員は「問い合わせが入ると、“大丈夫”とも言えない」と噴火の現実味に戸惑いを隠さない。
山形・宮城両県は、蔵王山での過去最大規模の噴火をもとに、ハザードマップを作成した。それによると、風向き次第で、約40キロ離れた仙台市でも降灰が予想される。
「仙台空港を発着する飛行機のほか、電車や新幹線の運行もストップすることが心配されます。降灰によって道路は非常に滑りやすくなり、電線が切れることもある。その点は、富士山が噴火した場合の横浜や東京の被害予想と同じです」(地元記者)
懸念はそれだけではない。蔵王山はいまだ雪化粧しているが、火口付近では、噴火して飛び出た噴石が雪を溶かし山の斜面を駆け下りる。発生した大量の水が土砂や岩石を巻き込みながら平野部まで到達する「融雪型火山泥流」となる可能性もあるという。
蔵王山の歴史をひもとくと、過去1000年間はおおむね100年に1回噴火したことがわかっている。
「前回噴火したのは1940年。これまでの噴火の歴史を見ると、もう少し先になりそうですが、東日本大震災の巨大地震の影響を加味しなければいけません」(サイエンスライター)
武蔵野学院大特任教授の島村英紀氏も、巨大地震と大噴火の関連性を指摘する。
「1950年以降、M9クラスの地震は世界で7回起きている。そして、そのうち六つの地震では4年以内に近隣の複数の火山が噴火しているのです」
'52年のカムチャツカ地震(M9.0)では、翌日にカルピンスキ山が大噴火を起こし、その後、周辺の2つの火山が相次いで噴火。2年後の'54年にも一つの火山が噴火し、さらに'55年には、それまで1000年近く活動していなかったベズイミアニ山が大噴火を起こしている。
また、'57年にアラスカ州南西で発生したアリューシャン地震(M9.1)では、2日後にヴィゼヴェドフ山、1年半後にオクモク山が噴火した。
史上最大として知られる'60年のチリ地震(M9.5)、'64年のアラスカ地震(M9.2)、2004年のスマトラ地震(M9.1)、'10年のチリ中部地震(M8.8)でも、4年以内に周辺の火山が噴火。こうして見ても、3・11から4年経過した今、蔵王山が大爆発する可能性は極めて高いと言えるのだ。
「地元観光業者や気象庁は観光への影響を考えて控えめに言いますが、もし噴火すれば風評被害どころでは済まない深刻な実害が発生する。札幌へ飛ぶ航空機はあの真上を飛びます。火山灰を吸い込んでエンジンがストップしたケースは何度もあるのです」(同)
日本には海底も含め110の活火山がある。気象庁はそのうち「47の火山が100年以内に噴火する可能性がある」としている。3・11の最大の被災地、東北地方にあるのは、47座のうちの17座。中でも活動を活発化しているのが蔵王山、吾妻山なのだ。
「蔵王山の活動は抜きん出ており、昨年12月噴火警戒レベルが平常の1から2に引き上げられ、福島市が入山規制している。ところが、吾妻山の入山規制については、福島市は山頂付近の“大穴火口”から500メートルの範囲にまで縮小した。これは観光シーズンに合わせての措置です」(前出・地元記者)
長野県と岐阜県に跨る御嶽山の場合、当時は警戒レベル1だったにもかかわらず、昨年9月27日に突如として水蒸気噴火を起こし、死者・行方不明者62名を出した。観光客が大挙して押し寄せる今、何事もなければよいが…。