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夜を棄てたキャバ嬢たち〜頼まれたら嫌と言えない紗江子〜

 人から何か頼まれた時、うまく断ることができない人はどこにでもいることだろう。しかしキャバクラ嬢にそのタイプがいた場合、本人が一番苦労することになる。客からの口説きや過剰なボディタッチ、はたまた店側からの無理な要求などが飛びかうキャバクラの世界。紗江子(仮名・25歳)もまた嫌とは言えない嬢だった。

 「子供の頃から頼み事をされると、嫌とは言えず苦笑いで頷くことしかできない性格でした。キャバクラで働いていた時もボディタッチを断れなかったり…」

 キャバクラを訪れる客の中で、もっとも迷惑とされるのがセクハラを繰り返す客である。明るい会話の中で手を握る程度ならまだしも、胸やふとももにしつこく触れるのは最低の行為と見なされ、場合によっては出禁となる。そんな客からのセクハラを軽くあしらうのがプロのキャバクラ嬢だが、紗江子は強く断ることができなかったという。そして彼女は客だけではなく店からの突然の要求にも答えていた。

 「急に休んだり、辞めたりした子の穴を埋めるのはだいたい私でしたね。疲れていても、電話で必死に店長から頼まれると断れないという事が何度もありました」

 たが紗江子がその性格で苦労したのは、店を辞めてからだったという。

 「当時、私は大学生で就職活動をしなければならなくなり、無理を言ってなんとかお店を辞めさせてもらったんです。辞めてから3か月くらいした頃だったかな。突然、店長から連絡があり“どうしても人手が足りないから少しの間だけ復帰してほしい”と言われたんです」

 複数のキャバクラ嬢が一気に辞めてしまい、売り上げに影響を与えるほど在籍嬢が少なくなった場合、店側は過去の採用ファイルを取り出し片っ端から電話をかけて復帰してくれる嬢を探すのだという。そのほとんどが拒否、または不通だそうだが、中には紗江子のような、スタッフの頼みに根負けしてしまう嬢もいるようだ。

 「その後も断りきれず、キャバを辞めては復帰と、2度も繰り返しました。でも今の恋人がキャバクラで勤めることに反対だったので、同棲を始めてからは携帯の番号も変え、夜の世界とは距離を置きましたね」

 現在、紗江子は都内でOLとして働きながら、結婚を考えている男性と同棲中だという。

(文・佐々木栄蔵)

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