search
とじる
トップ > レジャー > 「渋井哲也の気ままに朝帰り」 キャバクラ嬢ラストの日

「渋井哲也の気ままに朝帰り」 キャバクラ嬢ラストの日

 キャバクラ嬢は誰しも、お店を辞める日(ラストの日)がやってきます。計画的にラストを決めている嬢もいれば、突然ラストになってしまう嬢もいます。連絡もせずに突然いなくなることを「飛ぶ」と言いますが、飛んでしまう嬢の場合は、お客にとっては、ラストの日がはっきりしません。

 さて、そんなラストの日が、私の指名嬢=K嬢(20)にやってきました。店では数か月しか働いていないのですが、諸事情で辞めることになりました。K嬢の営業メールはいつもコピペ、もしくは、BCC(ブラインド・カーボン・コピー)の一斉送信めいた内容でした。

 「そんなコピペのようなメール営業はしてはいけないよ」

 とは言っていたのですが、数週間前からラストの日が決まっても、相変わらず一斉送信的な営業メールで、まったく進歩していませんでした。そんな進歩しないところも、好きなところではありました。

 ところで、最初に、私がキャバクラ嬢のラストの日にお店に行ったのは数年前です。その嬢(当時27)が辞めた後に実家に帰ってしまうということで、もう会えないかな? と思って、出向きました(結果としては、旅行で彼女実家の近くを訪れたときに、会いましたが)。

 その日は、普段よりも高いボトルを注文したのを覚えています。ただ、その指名嬢を「好き」だったわけではありません。どちからといえば、「友達営業」のスタイルだったので、こちらが飲みたいときに顔を出していただけでした。当時私がバーテンをしていたバーに客として連れてきたこともありました。

 さて、K嬢のラストの日はどうだったのでしょう。仕事のため、私があまり時間を取れなかったので、お店にいた時間は90分くらいでした。それでも、「来てくれると思ったよ」と、いつもよりも満面の笑みで迎えてくれました。

 キャバクラ嬢にとって、ラストの日にどのくらいの客が呼べるのかは、それまでの「苦労」が報われているのか、客にどんな風に見られているのかがはっきりする日でもあります。客からすれば、二度と会えない相手かもしれません。その「二度と会えないかもしれない」相手のために、ラストの日に来るのかどうか。キャバ嬢は緊張しているものでしょう。

 この日、店が閉まる午前1時近くまでいたのですが、あまり時間がなかったのもあり、ほとんど話せませんでした。指名も重なっていたし、仕方がありません。「お祝い」ですから。重なるということは、そこそこ人気があったということが確認できました。

 「ほんと泣きそうだよ」

 閉店時間が近づくと、K嬢は涙ぐんでいました。これまで何度もお店を辞めようと考えたこともあったようですが、今になってみれば、そんな愚痴もよい思い出だったようです。 

 「ここの女の子たちはみんないい子だし、てっちゃんとも会えたし、この店でよかった」

 こんなタイミングでほめられてもどうしようもありません。この言葉が「最期の営業」なのか、それとも、次の店へ「つなぐための営業」なのか、あるいは、本心なのかはわかりません。でも、何%かは本心であってほしいものです(期待しているわけではありませんが、ちょっとくらい、そんな夢見てもいいですよね?)

 過去のケースでは、私の場合、仕事をしている間よりも、仕事を辞めたときのほうが距離が近づいたりします。もしかすると、次の店が見つかるまでつないでおく客の一人に入れてくれているのかもしれません。また、業界を辞めてしまった元嬢も、関係の相性がよかったのか、友達でいてくれています。

 「てっちゃんとは最後じゃないよ。きっと、プライベートでも会えるよ」

 接客中、K嬢はそう言っていました。どんな関係になっていくのでしょうか。楽しみでもあります。 

<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。

【記事提供】キャフー http://www.kyahoo.jp/

関連記事


レジャー→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

レジャー→

もっと見る→

注目タグ