スポーツ 2020年12月20日 11時00分
プロ野球記者投票は信用できない? 巨人エースが巻き込まれた過去最大の大騒動、ファンの疑問は今も絶えず
ベストナイン、ゴールデングラブ、新人王、リーグMVPといったタイトルの行方を左右する記者投票。近年、その記者投票の結果に疑問の声が上がる事例が続出している。 前述の賞はいずれも全国の新聞、通信、放送各社に所属し5年以上プロ野球を担当している記者による投票のもと、毎年オフに受賞者が選出・発表されている。だが、12月16日に発表された今季のセ・リーグベストナイン(投票総数313票)では、二塁手部門で今季5試合しか二塁出場がない巨人・吉川大幾が3票、セ外野手部門でも外野には4試合しか入っていない巨人・モタが1票を獲得。これにファンの間では「どちらも4、5試合しか出場してないのに何を基準に投票したんだ」、「巨人番記者が球団に忖度したのか」といった批判が噴出した。 >>巨人戦力外選手への“ベストナイン投票”に「ふざけすぎ」ファン激怒物議を醸す吉川大・モタへの投票、理由説明を求める声も<< また、2017年のセ・リーグ新人王投票(同286票)では同年「10勝6敗・防御率3.57」で2ケタ勝利をマークしたDeNA・濱口遥大(27票)を、「.237・7本・38打点」と成績で劣る阪神・大山悠輔(49票)が得票数で上回ったことも問題に。当時ネット上では「2ケタ勝利投手より7本塁打の野手に票入れるってどんな好みなんだよ」といった疑問の声も複数見受けられた。 例年疑問の声が上がっているため、ファンの間では制度変更を求める声も高まっている記者投票。中でも過去最大の騒動といえるのが、1981年の沢村賞選考における巨人・江川卓の落選だ。 同年10月14日に行われた沢村賞選考。当時の同賞は「20勝以上、勝ちと負けの差が10以上、防御率2点台以下、奪三振率、優勝への貢献度」といった基準をもとに、東京運動記者クラブに所属する各社の運動部長の投票によって受賞選手が選ばれていたタイトル。同年は「20勝6敗・防御率2.29・221奪三振」といった成績を残し投手5冠を達成した江川の受賞が確実視されていた。 ところが、31社の運動部長が参加した選考では江川は人格面で受賞に値しないとして、「18勝12敗・防御率2.58・126奪三振」といった数字をマークした同僚・西本聖の受賞を推す運動部長が続出。「あくまで数字で判断すべき」という反対派の声もむなしく、投票の結果西本16票、江川13票、白紙2票で西本の沢村賞受賞が決定した。 江川の人格を疑問視する運動部長が続出した原因は、プロ入り前の1978年11月21日に当時のルールの盲点を突いてドラフトを介さず巨人と契約した、いわゆる「空白の1日事件」。この事件を巡っては同年のドラフトで1位指名した阪神がそのまま巨人に江川をトレード放出することを強いられたため、在阪メディアの運動部長はそのほとんどが西本に投票したといわれている。 江川本人は「同じチームの西本が獲ったんだからいいじゃないですか」と気丈に語ったこの投票結果だが、当時のファンからは「江川と西本なら西本の方が好きだが、沢村賞にするなら間違いなく江川だ」、「個人的な好き嫌いの感情で選ぶな」と批判が殺到。また、日本ハム・江夏豊が「誰が見たって江川に決まってる」、巨人・堀内恒夫も「バカなことをしてくれた」と口にするなど現役選手からも疑問を呈する声が相次いだ。 ファンや選手から猛反発を受け各社の運動部長は、翌1982年の沢村賞の選考委員を辞退。その結果、同年からOBを中心とした沢村賞選考委員会に選考を委ねることになり現在に至っている。 不可解な記者投票が原因となり制度変更にまで至った沢村賞の選考。現在度々物議を醸しているベストナイン、ゴールデングラブなどの記者投票も、今後の投票結果次第では同じ道をたどることになるのかもしれない。文 / 柴田雅人