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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 孫正義大博打に勝算あるか

 ソフトバンクが、大きな賭けに出た。米国携帯電話会社第3位のスプリント・ネクステルを買収すると発表したのだ。また、スプリント社を通じて第5位のメトロPCSの買収も視野に入れているという。ソフトバンクは国内でイーモバイルを運営するイーアクセスを買収することで、すでに合意しており、この米国携帯電話会社の買収が成功すれば、売上高が6兆円を超え、世界3位の携帯電話会社に躍進することになる。

 この買収戦略は、円高メリットを生かした積極投資だと賞賛する声が上がる一方で、市場の反応は冷淡だった。買収報道が出た当日、ソフトバンクの株価は17%も下落したのだ。
 市場の反応は、ある程度理解できる。何しろソフトバンクが買うスプリント社は、5期連続で赤字を出している問題会社なのだ。ソフトバンクは、2兆円近い投資をして、爆弾を抱え込むことになるのだ。
 ただ、私はこの買収劇が失敗に終わるとは思っていない。それは、孫正義という経営者が、これまで「確実に負け」とみられていた大勝負を何度も勝ち抜いてきたからだ。

 いまやIT長者のトップとして君臨する孫正義氏は、ビルゲイツのような技術者として頭角を現したわけではない。彼の最大の能力は、「他人のふんどしで相撲をとる」ことだ。
 自動翻訳機の開発で、1億円の資金を手にした孫氏は、まだ数人規模の小さな会社であった米国のヤフーに目をつけ、出資をする。その時取得した株式が、ヤフーの急成長とITバブルに乗っかって、莫大な資産となった。ただ、ソフトバンクはヤフーの大株主というだけで、基本的な性格は投資ファンドだった。高い時価総額を背景に次々にM&Aを仕掛け、さらなる時価総額増をねらう「虚業」だったのだ。
 しかし孫氏がITバブルの崩壊を乗り切り、自社のさらなる発展を遂げることができたのは、虚業を実業に切り替えていったからだ。

 最初の大きな賭けは、ヤフーBBによるブロードバンドビジネスへの挑戦だった。当時、誰もが無謀だと言った。何しろ敵は巨人のNTTだ。ところが、孫氏は街頭で端末を無料配布するという思いも寄らぬ戦略で実績を築き、結果的にブロードバンドの普及に大きく貢献した。
 2回目は、日本テレコムを買収して、有線電話事業へ参入したことだ。再びNTTに立ち向かったのだ。そして、立て続けにボーダフォンを買収した。このときの投資額は今回とほぼ同じ2兆円で、危険な投資と言われた。ところが、負け組の携帯電話会社を一流にのしあげ、iPhoneの販売権を得ることで、ソフトバンクの携帯電話事業を揺るぎないものにしたのだ。

 孫氏は決してITの専門家ではない。技術的なことは、ほとんどわかっていない。だが、鋭い嗅覚で成長ビジネスを見つけ、思い切った買収に出る。
 だからソフトバンクの事業は基本的に他人が作ったものなのだ。しかし、それは非難すべきことではない。アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズも技術的なことはわかっていなかった。しかし、だからこそ消費者の視線に立った新しい商品を次々に生み出すことができたのだ。
 「平凡な人生に安住しない」と孫氏は言った。今回の買収が成功するとは限らないが、チャレンジ精神は学ぶべきだろう。

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