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牛丼値下げ戦争ついに終結 赤字転落ブラックすき家の不徳

 牛丼チェーン最大手『すき家』を運営するゼンショーホールディングス(HD)に対し、市場には「ついに崖っぷちに追い込まれたか」と冷ややかな声が渦巻いている。小川賢太郎会長兼社長が8月6日の会見で“ブラック企業”の象徴とされてきた深夜の1人勤務、即ち“ワンオペ”を9月末までに解消すると表明、解消できない店舗は深夜(午前0〜5時)営業を取りやめることから、来年3月期の業績見通しを当初見込んだ41億円の最終黒字から一転して13億円の最終赤字に訂正したのだ。
 赤字転落は昭和57年の創業以来、初めてのこと。すき家は「デフレ下の勝ち組」をアピールしてきただけに、赤字転落のインパクトは強烈だ。

 現在、すき家の店舗は全国に約2000店あり、うちワンオペ体制となっているのは940店。小川会長は「(取りやめるのは)半分の460〜470店となりそうだが、最悪の場合は940店全てになる」とまで踏み込んだ。その分、業績見通しはぶれてくる。まして2人勤務にスンナリ移行できたとしても、今度は人件費が膨らんで経営を圧迫する。
 だからこそ小川会長は「(赤字は)非常に残念。労働条件を改善していくためにも、利益を確保できるようにしなければならない」として、8月27日から牛丼並盛りを税込270円から291円に値上げし、他のサイズも20〜40円値上げする。「不毛の体力消耗戦」と揶揄されるほど値下げ競争に明け暮れてきた牛丼業界にとっては、これぞ“歴史的事件”というしかない。

 何せ、消耗戦の先鞭をつけたすき家は瞬く間に吉野家を抜いて業界トップに躍り出た。今年の4月、消費税が8%に引き上げられたのを機に吉野家が牛丼並盛りを280円から300円、松屋フーズが280円から290円にそれぞれ値上げしたのに対し、すき家は逆に280円から270円に値下げした。安さを前面に出すことで集客効果を高め、ライバルを一気に出し抜こうとの作戦であった。
 「デフレ時代ならばそれが通じた。安さを前面に出すことで客が群がり、回転率さえ良ければ薄利多売でも十分採算が取れるからです。しかし脱デフレに入った今、単に安いだけでは客が魅力を感じなくなったばかりか、すき家の懲りない体質が次々と表面化した。むしろ最近までのゼンショーHD=すき家は、従業員などの大きな犠牲の上にわが世の春を謳歌していたのです」(証券アナリスト)

 それを象徴するのが、7月31日にゼンショーHDの第三者委員会が提出した労働環境改善の提言である。同委員会は従業員への匿名のアンケートを基に「恒常的に月500時間以上働き、サービス残業が多い」「居眠り運転で交通事故を3回起こした。人が取れず、金曜から月曜は回転(店舗での24時間連続勤務)になる」など、苛烈な労働実態をあぶりだしたのだ。
 “ブラック企業”と陰口されるだけあって新卒社員の離職率も高く、2010年入社組は33%。これが'11年組は40%、'12年組は46%と年々悪化している。これを踏まえて弁護士である久保利英明委員長は「会社が短期間で急成長を遂げた成功体験から創業メンバーら経営幹部の間に長時間労働を容認する考え方が根強く、法令を軽視していた」と指摘した。このときに記者会見した小川会長は「人手が足りなければ店を閉めろというのは乱暴な話だ。1店舗で働く人は15〜20人おり、彼らにとって掛け替えのない職場だ」と強調、返す刀で問題のワンオペについて「時間当たり売上高に対する適切な労働力投入という考え方。クルーを増やせば顧客満足度が上がり、売り上げも上がるが、経営が立ち行かなくなっては…」と、思わず“本音”を口にしている。

 小川会長が赤字転落と牛丼値上げを発表したのは、それからわずか1週間後のことだ。言い換えればこの間、ゼンショー経営陣は提言の重みをかみしめ、世間にどう変身をアピールするかに腐心してきたことを意味する。
 「とはいえ今年の3月にはバイトの造反で138店が一時休業に追い込まれた。過酷な労働を強いられた揚げ句、ワンオペは強盗の標的にもなりやすいわけですから、たまったものじゃありません。もし3月の時点で素早く対応していれば違った展開になったでしょうが、経営陣は第三者委の提言を受けてやっとアクションを起こした。世間に対するアリバイ工作程度の魂胆ならば、遠からず馬脚を現しますよ」(経済記者)

 人手不足が深刻化する中、どう企業イメージを払拭させて人材を確保するのか。まして深夜勤務は通常の時間帯に比べて時給が高い。これが経営の足かせになりかねないだけに、小川会長は今までの壮絶な価格戦争とは全く違ったサバイバル戦略を迫られる。

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