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どう出るアサヒ・キリン・サントリー 酒税一本化 大手ビール業界の悲喜こもごも

 発泡酒、第三のビールなど、税率がバラバラだったビール飲料類の税率が'20年から'26年にかけ段階的に変わり、一律55円になる方向だ。ほかにもチューハイ、ワイン、日本酒などの税率も変更されるという。この激変に、ほくそ笑むメーカー、厳しい状況に追い込まれそうなメーカー、さらには販売店まで巻き込み、悲喜こもごもの一大酒税論争が勃発している。

 現在、ビール系飲料類はビール、発泡酒と、新ジャンルのいわゆる第三のビールに分類される。
 この区分は材料の麦芽比率を基準に分けられる。基本的に麦芽とホップのみで作られ、麦芽比率が67%以上のものがビール。それ以下の麦芽比率とほかの原料を混ぜ製造したものは発泡酒。麦芽以外の、とうもろこしや大豆などを原料にビール風味を出すのが第三のビールだ。
 「そもそも、発泡酒や第三のビールはビール税率があまりに高いため、節税商品として生まれた。消費者に安い商品を届けようという企業努力の末の商品だったのです」(ビール業界関係者)

 確かに、ビールは割高感が強い。大手コンビニで一般ビール350ml缶は、221円〜224円前後(税込)。発泡酒は165円前後。第三のビールはビールより80円近くも安い145円前後。この価格差の最大の理由はビールの高い税率で、現在、350mlあたり77円の酒税が課せられる。対して、発泡酒は47円、第三のビールは28円だ。
 しかし、このビール価格の高低さは、国にとって税収が増えるどころか不都合なことが生じてきた。
 「酒税総額1兆3700億円のうち、7割はビール系飲料類です。しかし、若い人が酒を飲まなくなったことに加え、人口減も重なり、国内のビール類市場全体は'94年の約705万kl(課税出荷数量)から、'15年には537万klにまで減少した。それだけでも税収は大きく落ち込むのに、ビール消費量は全体の5割で、残りは税率が低い発泡酒と第三のビールに流れている。特に第三のビールの比率は大手5社(アサヒ・キリン・サントリー・サッポロ・オリオン)の全体出荷数の35%に上っています。国としては、この酒税税収の減少になんとしてでも歯止めをかけたいのです」(ビールメーカー関係者)

 そこで国は、ビール税率を緩和する代わりに、人気の高い発泡酒と第三のビールに高い税率を課そうとしているのだ。
 「政府は、第三のビールを7年後には廃止して発泡酒に統合させる方向です。ビールメーカーは、20年にわたり高いビール税率と戦っては新しいビール風味のものを作ってきましたが、またまた国税の壁に阻まれてしまう。一方で、ビール税率が低くなったからといって発泡酒や第三のビール並みに売れるという保証はありません」(同)

 ビールメーカーもこの税制の激変対策に躍起だ。
 「ビール税率が下がるため、ビール比率を高くし、さらに美味いビール、高級ビールで売上高をカバーしようとしています」(経営アナリスト)

 そんな中、比較的鷹揚に構えるのは、国内ビールシェア5割のアサヒビールだ。
 「もともとアサヒは、主力商品がビールの『スーパードライ』で、全体の5割の売り上げを占めている。これからの税制改革でも、大きな影響はないと踏んでいるようです」(ビール業界関係者)

 業界2位のキリンビールはどうか。
 「ビールでは『一番搾り』も売り上げが順調だが、発泡酒はキリンNo.1。この発泡酒の税率は、今後の改正で8円近く上がる。それだけに、製品構成比率を徐々に変えないと、大きなダメージを受けると見直しに躍起です」(同)

 業界3位のサントリーはどう対応するのか。
 「実は、今回の税率改正で最も大きな影響を受けるのはサントリーとも囁かれている。ビールは『ザ・プレミアム・モルツ』を出し好調ですが、第三のビール『金麦』が主力商品。『モルツ』がいくら好調でも、『金麦』の売り上げをカバーするのには到底無理そうで、今後の展開を深刻に模索しているようです」(同)

 加えて、今回の税制改革には不安があると指摘するのは、元財務省関係者。
 「いままで日本の酒税税制は、その複雑さゆえに世界7番目のビール消費国でも外資が参入しにくかった。そのため日本へ、ベルギーの世界最大のビールメーカー、ABインべブなどを中心に、改革のプレッシャーをかけていた。今後、その税制が単純になることによって、外資系が一気に日本市場に参入する。となれば、大手メーカーが飲み込まれる可能性は十分にあるでしょう」(前出・経営アナリスト)

 いずれにせよ、我々消費者は安くて美味い一杯が飲めれば文句はないのだが…。

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