その店で磯村という男と知り合った。年を聞くと水口さんよりひと回り若い39歳。なかなかのイケメンだ。
チンジャラジャラ…。
「今日はどうだった?」
昼食をとりながら話をすることもあって2人は次第に接近していった。手にした稼ぎを軍資金に飲みにいくこともあり、口のうまい磯村に水口さんはメロメロになっていった。
といっても、水口さんは主婦。外泊ができるわけではないが、男女の関係になると、磯村はパチンコに負けたと言っては金を引っ張った。
「セックスの快感がより高まるから」
磯村がホテルでバッグから取り出したのはパケに入った白い粉だった。それをアルミホイルの上に載せ、下からライターの火であぶった。立ち上る煙を嗅ぎながら、磯村は「時恵さんもやらない」と誘った。恐る恐る水口さんも便乗する。
しばらくすると、心臓がバクバクいった。気持ちが一気に高ぶっていくのが分かる。服を脱ぐ手間さえ惜しんで、2人は互いの体をむさぼりあった。快感が頭を貫いた。頭が真っ白になった。水口さんがその白い粉を覚せい剤と知ったのは後になってからだ。
「いけないわ。こんなことしていたら、お互い駄目になってしまう」
水口さんは言ったが、磯村から求められるとつい応じてしまった。覚せい剤を手に入れるために必要な金を5万、10万円と貢いだ。気がついたら、それは軽く500万円を超えていた。
夫が彼女の様子がおかしいことに気づいたのは1年後のことである。家事をしている最中、突然、天井にうじ虫が這っていると大声を出したのだ。
「あなた、この家にはうじ虫がいるわよ。ホラホラ見て。何とかしなきゃあ」
驚いた夫がさっそく精神科に連れて行ったが、原因は分からなかった。ひょっとして、統合失調症か。夫や娘は心配した。司直の手につかまったのはそれから数カ月後である。売人のリストから磯村の存在が浮かび、愛人の水口さんにまで捜査の手は及んだ。尿検査の結果、陽性。夫は激怒し、水口さんを離婚した。初犯ということで執行猶予はついたものの、有閑マダムの満ち足りた生活を失った彼女は、6畳一間の文化住宅暮らしを余儀なくされている。
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