モーニング娘。の8代目リーダーとして、メンバーから絶大なる信頼を得ていた道重さゆみ。彼女が撮影した『ミチシゲカメラ '13-'14』を見れば、無防備すぎる笑顔や、レンズの存在を忘れているかのような変顔などから、撮影者と被写体の間に一切の壁がないことがうかがえる。加えて、「カワイイ」に対する探究心が人一倍旺盛で、「二代目のハロプロプロデューサーになって欲しい」とファンから声が上がるほど、アイドルをかわいらしく見せるプロデュース能力に長けていた道重。彼女が撮影した写真集が大絶賛を受けたのも、充分理解できる。
アイドル自身が撮影した写真集といえば、AKB48や姉妹グループの『友撮』シリーズもよく知られている。また、2002年〜2006年頃には、ハロー!プロジェクトコンサートの舞台裏をメンバーが写した『みんな大好き、チュッ!』もシリーズ化され、人気を博していた。
どれだけ優秀なカメラマンでも、これらの写真集を撮ることはできない。撮影者がメンバーだからこそ切り取ることができる表情や場面は、それだけでレア感の高い作品となる。
もちろん、職業カメラマンによる「キメ顔のアイドルスマイル」や「演出された情景」が並んだ写真集にも、プロならではの作品性や魅力はある。しかし、普段のステージ上やテレビの中では見ることができない「素」の表情は、ファンに新鮮な感動を与えてくれる。そして、キメ顔は見慣れた(見飽きた)コアなファンほど、作られていない顔を見たがるものだ。ブログに載せられた何気ないツーショット写真などにファンが大きなリアクションを見せるのも、プロのカメラマンでは写すことができない、新鮮かつ現実味あふれる「空気」がそこにあるからだ。その空気を楽しむ感覚は、ある種「覗き見」にも近い。
アイドルのプライベートを覗き見る。アイドルオタクにとっては、夢のようなシチュエーションだ。前述したような写真集がウケるのも当然だろう。
アンジュルム・相川茉穂が撮影した写真集が望まれているのも、彼女がブログにアップした写真がきっかけだ。彼女が写したアンジュルムやハロプロメンバーの表情も、やはり非常にリラックスしており、ちかしい者同士ならではのムードを見ることができる。ただ、それだけなら彼女以外のメンバーにも、同じような写真を撮ることは可能だ。相川が撮る写真は、構図、背景の取捨、光の取り入り方などに「芸術性」を感じさせるのだ。
アイドルだけでなく、多くの“素人”は、つい被写体を中心に置き、できるだけ近づき、正面から撮そうとする。しかし、相川の撮るメンバーの写真は、構図の端にいることも多く、顔が見えないほど遠くにいるものも。アイドル写真にとって最も重要な「顔」が写っているか否かにも、こだわりはない様子。あえて背中を写すことで、1枚の写真の中に、控えめな「物語性」を作り上げているようにも見える。
こうした効果を、本人がどこまで意識的に作っているかは不明だ。ただ、「構図」に関しては、ときにトリミングもしつつ、ある程度、意図して切り取っているらしい。
構図の選び方ひとつからも絵的な才能を感じさせる相川。それもそのはず、相川の高祖父、曽祖父、祖父、祖母は画家で、母親もデザイナーという芸術家一家なのだ。ブログの写真などで垣間見せる芸術的才能は、代々の血筋と環境が育んだもののようだ。
今のところ、ハロプロファン以外には、それほどの知名度はない相川茉穂。2014年10月、3期メンバーとしてスマイレージ(現アンジュルム)に加入。同期が経験豊富な室田瑞希と佐々木莉佳子だったこともあり、当初はスキルの差にも苦労したようだが、現在では4期・上國料萌衣、先日加入したばかりの5期・笠原桃奈にアドバイスするほどに成長。
スキル以上に成長・開花したのが、個性的なキャラクターだ。ブログ写真で見せる絵的な才能もそのひとつ。幼少時から宇宙が大好きで、天体望遠鏡を使った本格的な月の写真をブログに載せることもたびたび。同じく宇宙好きから発展したのか、「ウルトラ怪獣」も大好き。ウルトラマンではなく怪獣側に感情移入するところに、「相川茉穂」ならではの感性が見える。怪獣に関する取材をいくつか受けるうち、ついには季刊誌『SF・特撮 ビジュアルマガジン 宇宙船』で連載を持つまでに。
まだまだ、別の引き出しを持っていそうなアンジュルム・相川茉穂。新鮮な魅力が発見できる「別の顔」「新しい顔」は、アイドルにとって大きな武器になるはず。偉大な先輩に続き、『アイカワカメラ』が出版される日も近い?
【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第38回】
*写真 アンジュルム メンバーブログ
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