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プロレス解体新書 ROUND22 〈“新旧”リーダーの激突〉 尻すぼみに終わった世代闘争

 1987年8月19日、東京・両国国技館。新日本プロレスNOWリーダー軍とNEWリーダー軍の5vs5イリミネーションマッチで凱歌を上げたのは、2人勝ち残りの完勝を収めたNEWリーダー軍だった。
 だが、これをもって世代交代という者は皆無に等しかった…。

 昭和のプロレス黄金期をけん引した新日本プロレス。しかし、さまざまなヒット企画を生み出したその一方では、数多の失敗も重ねてきた。
 失敗の多くは先を考えない無計画性によるもので、アイスホッケーのマスクをかぶった海賊男などは、その典型である。
 「フロリダ遠征中の武藤敬司に何か仕掛けようというときに、アントニオ猪木が『フロリダといえばカリブ海、カリブといえば海賊だろう』と言い出したのが始まりで、要は単なる思いつき。なんら将来の展望があったわけではなかった」(新日関係者)

 それでも創業者の意見を無下にはできない。
 「言う通りにやってみろ」「やり方は任せる」と強引かつ無責任な難題を押し付けられて、困ったのが現場だった。
 海賊男を誰が扮するのかすら決まっておらず、そもそも言い出しっぺの猪木が、最初に海賊姿となって武藤を襲撃したというのだから、それ以後にまともなアングルなど組みようがない。

 '87年3月、練習生だったブラック・キャットが海賊男に扮した際には、猪木を手錠でコーナーにつなぐべきところを、誤って相手のマサ斎藤に手錠を掛けてしまうという大失態を犯し、あまりの意味不明な展開に激怒した観衆が暴動を起こす騒ぎとなっている。
 では、思いつきのアングルがすべて悪いのかというと、そうでもないのがプロレスの奥深いところ。時にそれがモハメド・アリ戦や北朝鮮興行のように、歴史的な偉業となることもあるし、逆にしっかり戦略を立てた仕掛けが、あっさりとポシャることもある。

 さて、大阪での暴動騒ぎから3カ月後、IWGPリーグ決勝戦で猪木がマサ斎藤を下したリング上で、長州力の呼び掛けに藤波辰巳(現・辰爾)、木村健吾、前田日明が応じたことから、新日マットにおける世代闘争が始まった。
 「実はこれ、テレビ朝日が中継の目玉として企画したものでした。猪木の正規軍と長州の維新軍、そして前田のUWF軍による三つ巴の抗争では、視聴者に相互関係が伝わりにくいとの理由から、旧世代のNOWリーダーvs新世代のNEWリーダーという新たな構図を作り出したわけです」(スポーツ紙記者)

 しかし、これはなんら結果を残すことなく尻すぼみに終わる。失敗の原因は大きく二つある。
 一つはこの時期のテレビ中継が、バラエティー色を前面に打ち出した『ギブUPまで待てない!!』へとリニューアルされたこと。
 「プロレスを軽んじた演出に愛想を尽かしたファンは多く、視聴率が激減。これまでの金曜から火曜に放映日が替わったことの影響もあり、アングルのよしあし以前に、視聴者自体がいなくなってしまった」(同)

 そうしてもう一つは、選手たちのやる気の問題だ。
 「そもそも総帥である猪木が世代闘争に乗り気ではなく、露骨になんで若い連中を引き立ててやる必要があるのか?という態度でした。長州や前田も自分がトップに立ちたいタイプで、共闘への意識が薄かった」(同)

 そんな中にあって、世代闘争のクライマックスとなるはずだった新旧世代の5vs5イリミネーションマッチが、要領を得ないものになってしまったのは、むしろ必然であったのかもしれない。
 NEWリーダー軍は藤波辰巳、長州力、前田日明、木村健吾、スーパー・ストロング・マシンと順当な顔ぶれがそろったものの、NOWリーダー軍に名を連ねたのはアントニオ猪木、坂口征二、星野勘太郎、藤原喜明、武藤敬司という面々だった。
 若手も若手の武藤が旧世代軍入りしたのは、もともと参加予定だったマサ斎藤が、直前にアメリカで出国不能になったからとの理由であった。しかし、現場的には「なんでもいいから売り出しておけ」との意識も、少なからずあっただろう。
 また、そのいかつい顔付きから旧世代に並んで違和感のない藤原も、実年齢では長州と2歳しか違わず、むしろ新世代にふさわしかった。

 試合経過は以下。
長州(体固め)坂口
猪木(卍固め)マシン
藤原(膝十字固め)木村
猪木(両者リングアウト)前田
藤波(逆さ押さえ込み)藤原
長州(体固め)星野
藤波(原爆固め)武藤
 「肝心かなめの猪木が中盤でリングアウトとなったのは、今後にストーリーをつなぐためとはいえあまりに安易で、もっと他にやりようはなかったのかという気にもなる。さらに、最後が藤波と武藤で決着というのでは、いったいどこが世代闘争なのか」(プロレスライター)

 結局、一連の抗争はこれ以降も盛り上がることはなく、テレ朝は次の一手として『TPG(たけしプロレス軍団)』を打ち出し、さらに不評をかこつことになった。

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