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小規模店は死活問題 禁煙義務化の波に揺れる飲食業界

 「完全禁煙が国で決まったら、もう店は畳む覚悟。たばこを吸う馴染みの客が圧倒的に多い。その常連さんに『お客さん、今日から禁煙だから、たばこは吸わないで欲しい』とどう言うの。若い人がやる小さな店は特に厳しい。役人は、そこを見ているのかと言いたい」(都内の居酒屋店主)

 厚労省は、たばこの煙で健康被害を受けないようにする「受動喫煙防止強化案」を、今国会に提出する動きを強めている。その最大の争点は、飲食店の建物内を完全禁煙にするか、別の方法を模索するかだ。
 その部分に関し、このほど厚労省がたたき台とする案の細則が固まりつつあるという。30平方メートル、つまり約9坪以下のバーやスナックは、換気条件が整えば喫煙でもOK。しかし、小規模の焼き鳥屋や居酒屋、ラーメン屋も原則禁煙(禁煙室設置義務)とするものだ。
 「すべては'20年の東京五輪に向けての動き。国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機構(WHO)は『タバコのないオリンピック』を、共同で推進している。近年の五輪開催地で北京、ロンドン、リオデジャネイロは、受動禁煙防止策を講じてきましたからね」(厚労省担当記者)

 さらに、日本医師会など医療関係者からは、健康上、公共の場を屋内全面禁煙とする法律を、という声も日増しに強くなっている。
 加えて、世界的な流れもある。公共の場を全面禁煙施行する国が'14年で世界49カ国あり、WHOは日本を「世界最低レベル」と指弾してきたのだ。
 「だから厚労省は、この五輪を機に悪いレッテルを一気に返上しようと躍起になっているのです」(同)

 悪質な違反者には、喫煙者は30万円、施設管理者は50万円の罰金が課せられる案も出ているが、これに冒頭のように反対意見が続出し始め、飲食店業界は揺れに揺れている。
 小規模な焼き鳥屋や居酒屋、食堂など組合員数約8万5000人を抱える全国飲食業生活衛生同業組合連合会(全飲連)、約1万6000の旅館が加わる全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)、組合員数約5000人の全国すし商生活衛生同業組合連合会(全すし連)など、16団体が加わる一般社団法人・全国生活衛生同業組合中央会(東京都港区)。ここが旗振り役となり、日本たばこ協会などとともに1月には「受動喫煙防止強化に対する緊急集会」を開き、厚労省案の一律規制に反対の狼煙を上げた。さらに、2月からはネットや街頭で反対署名活動も始めている。

 同中央会の伊東明彦事務局長は言う。
 「厚労省が唱える受動喫煙防止は、大いに進めなくてはならないという論は最もです。その前提で、喫煙者も非喫煙者も自主的に選択できる、分煙で共存できる方法を模索することが大事というのが私たちの主張です。飲食店でタバコが吸えるか、吸えないかなどを明確にするなど、分煙共存の方法はいくらでもあると思います。また日本では、世界的に見ても自主的に上手く分煙が進んできているので、そこをさらに発展させれば、共存できると思います」

 さらに、こう付け加える。
 「親爺さんが1人で手狭の店を切り盛りしているところで喫煙室を設けること自体に無理があり、そこをどうするかは厚労省と話しても明確ではない。そうした店が、実は独自の味や店構えを作り、地方や都内の路地裏の独自の日本文化を支え、さらには日本を訪れる外国人に人気なのです。それが、規制強化で店を維持できなければ、地方も都内もシャッター街になる。地方創生にとっても、逆行するのでは、とも思ってしまいます」

 同中央会では今後、厚労省や自民党厚生労働部会などの動きを睨みながら「分煙、共生、自主的取り組み」を訴え、厚労省案の規制強化案に地道な反対署名を続けるという。
 「厚労省案の雌雄を決する自民党内では、たばこ産業関連や生産者票も絡み、部会内でも賛否が拮抗して一枚岩とはいかないのが現状。さらに自民党議員280人が参加する『たばこ議連』(野田毅会長)は3月7日に臨時総会を開き、『飲食店は禁煙、分煙、喫煙から自由に選択できるようにし、表示を義務化する』とした分煙推進案を打ち出し、厚労省の案を強く牽制したが、これに厚労省側も“緩すぎる”と反発しています」(全国紙政治部記者)

 しかし一方で、飲食店といえども、次のような声があるのも事実。
 「最近は受動喫煙を嫌う客が増えているのか、喫煙可の時はオーダー前にすぐ店を出てしまう客が増えていた。そこで思い切って店内完全禁煙にしてみると、タバコの煙がなくなったのを歓迎する新たな客が増え、以前より売り上げが伸びたのです」

 今後の展開が注目される。

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