現在、政府のエネルギー政策の基本は、原発依存度を可能な限り低減させていくというものだ。自民党の公約もそうなっている。つまり、長期的な“脱原発”を目指すことにしているのだ。そのなかで経済産業省は、原発の新増設を行うという。これはエネルギー基本政策への反逆ともいうべき方針だ。
実は、私にはこうなるのではないか、という予感がしていた。政府が原発を重要なベースロード電源と位置付けたことも理由のひとつだが、最大の理由は、この数年、政府が太陽光発電を目の敵にし始めていたからだ。
福島第一原発の事故以降、国は再生可能エネルギーを拡充するために、様々な施策を打ち出してきた。なかでも最も大きな効果を発揮したのが、太陽光発電の固定価格全量買い取り制度だった。
太陽光発電で作られた電力を20年間にわたって電力会社が固定価格で買い取ることを義務付けたため、太陽光発電に参入する事業者が急増した。太陽光発電は、電力使用量が最も増える夏場の日中に大きな出力を発揮する。だから、原発事故後、日本の原発が全停止するなかでも、夏場の電力ピークを何とか乗り切ることができたのだ。
しかし、原発なしでも電力をまかなえるという事態は、原発村の住人たちを慌てさせたのだろう。そこで彼らが採った施策が、太陽光発電への嫌がらせだったのだ。
まずは、単価の切り下げだ。'12年度に全量買い取り制度が導入されたとき、買い取り単価は40円だった。それが毎年切り下げられ、今年度は21円となった。5年で半額だ。太陽光パネルの価格が下がったからという説明がなされているが、太陽光発電には、土地代、固定資産税、設備稼働のための電気代、設備保全費などさまざまなコストがかかる。それを考えたら、21円というのは、事業がほとんど成り立たない価格だ。そもそも、我々庶民が支払っている電気代の単価より安いのだ。
嫌がらせは他にもまだある。送電網の容量不足を理由に、いま太陽光発電の買い取りを行う地域は、厳しく制約されている。本来であれば、送電線の容量を拡大すればよいだけの話なのだ。
さらに'15年からは、無制限無補償の出力制限が導入された。電力会社の電気が余った場合には、太陽光発電を買い取りませんという制度だ。つまり、せっかくの太陽光発電を捨ててしまえということだ。これでは、太陽光発電を計画する事業者は、採算の見通しがつかない。
実際問題として、いま太陽光発電への参入は失速を迎えている。政府がエネルギー基本計画で示した再生可能エネルギーの電源割合22〜24%という水準に、遠く及んでいない現状での失速だ。
日本経済新聞には、「再エネが拡大するほど原子力などの安定電源の重要性が増す」と書かれているが、それは誤りだ。出力が変動する太陽光を補完する火力発電や蓄電池こそが、今後、重要になるのだ。