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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 景気が踊り場の理由

 昨年、アベノミクスによってV字回復を達成した日本経済が、今年に入って低迷を続けている。例えば日経平均株価でみると、昨年は年初から年末にかけて52%も上昇したにもかかわらず、今年は年初につけた1万6164円の最高値を、いまだに一度も超えていない。つまり、今年は株価が下がっているのだ。

 もちろん、その大きな原因は4月の消費税増税だ。消費税増税後、4月、5月、6月と3カ月連続で家計調査の実質消費が前年割れを起こしている。
 ただ、もう一つ景気が低迷している重大な理由がある。それは為替だ。

 マクロ経済政策から見ると、安倍内閣は、小泉内閣と同じ戦略を採った。それは政権発足初期の大規模な金融緩和だ。小泉内閣は、2001年1月にマイナス6%だったマネタリーベース(現金+日銀当座預金)の伸び率を、'02年4月にプラス36%まで引き上げた。1年3カ月で40ポイントも資金供給の伸び率を高めたのだ。安倍内閣も'12年12月に12%だった資金供給の伸び率を、今年の3月に55%まで高めた。同じ1年3カ月で、43ポイントの増加だが、その効果は異なっていた。
 小泉内閣の'01年から'06年までの5年間の対ドル為替レートは1ドル=116円だった。ところが、安倍内閣の金融緩和では、現状1ドル=101円にしかなっていない。小泉内閣のときの方が、はるかに円安になったのだ。

 その為替レートの違いが、輸出の伸びに明確に表れている。GDP統計でみると、小泉内閣の時代、'01年から'06年までの5年間で実質ベースの財貨・サービスの輸出は、57%も増えている。年率換算をすると9.5%増だ。ところが、安倍内閣が発足した'12年から翌'13年にかけては、わずか1.7%しか増えていないのだ。直近の貿易統計でみても、今年5月、6月の輸出金額は2カ月連続で前年比マイナスとなっている。
 民主党政権時に1ドル=79円という超円高を招いたことで、生産拠点の海外移転が進んでしまったことの影響もあるが、輸出がまったく増えない理由は、まだ為替が経済の体力が見合ったところまで円安に戻っていないということだ。

 構造改革とか成長戦略とか色々なことが言われるが、国際競争力の大部分は為替レートで決まる。だから、小泉内閣時代の輸出の伸びを取り戻そうと思ったら、さらに大規模な資金供給増を実施し、円安に誘導しなければならないのだ。
 日銀の黒田東彦総裁が一番嫌うのは、「小出し」の金融緩和だといわれている。黒田総裁は、いま金融緩和を溜めているのではないか。現に3月に55%だった資金供給の伸び率を6月は43%にまで絞っている。そして、日銀バズーカと呼ばれる次の大規模金融緩和は、7〜9月期のGDP統計で消費失速が明らかになる今年12月に繰り出されるのではないだろうか。

 大規模金融緩和が行われれば、為替レートは円安に向かい、輸出主導の経済成長路線に日本経済は向かうだろう。しかし、同時に円安は物価上昇に拍車をかけるから、国民生活は圧迫される。
 だから、年末に予定されている来年10月からの消費税引き上げ判断は、引き上げ凍結でなければならない。安倍総理はそれをわかっているだろうか。

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