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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第94回 クルーグマン教授の結論

 アメリカのノーベル経済学者であるポール・クルーグマン教授は、9月16日に現代ビジネスに掲載されたインタビュー『日本経済は消費税10%で完全に終わります』で、
 「消費増税は、日本経済にとっていま最もやってはいけない政策」
 と、結論づけている。

 日本政府は現在の日本経済の失速について、
 「消費税増税の反動減はあったものの、景気は緩やかに回復している」
 と、例により抽象論で説明しているが、現実の数字は悲惨だ。

 不動産経済研究所が9月16日に発表したマンション市場動向によると、8月の首都圏マンション発売戸数は前年比49.1%減と、衝撃的なマイナスになってしまった。前年比での減少は、これで7カ月連続となる。
 しかも、8月の49.1%減というマイナス幅は、リーマンショックがあった'08年9月(53.3%減)以来、5年11カ月ぶりの大きさになる。8月としては、1974年(50.1%減)以来の落ち込みだ。
 1974年がいかなる時期だったかといえば、もちろん前年('73年)のオイルショックの影響で、実質GDPがついにマイナスに落ち込み、しかも物価上昇率が20%を上回り、日本が(一時的に)スタグフレーション(不況であるにもかかわらず物価が上がり続ける状態)に突っ込み、高度成長が終焉を迎えた年になる。
 '14年8月のマンション発売戸数の落ち込みは、高度成長期の終わり、あるいはリーマンショックに匹敵する惨状という話なのだ。

 また、個人的に注目しているのは、8月の「新車販売台数」が前年同月比9.1%減となり、'11年8月以来、最悪となってしまった事実である。
 逆に、7月の全国スーパー売上高は、前年比2.1%減と、落ち込みが「緩く」なっている。食品スーパーに限って見ると、前年同月比0.2%「増」であった。特に、畜産品や水産物、惣菜の売上が好調だった。
 食品が対前年比並みの売上になっている反対側で、日用品や化粧品はやはり低調である。すなわち、消費税増税後の日本国民の消費は、「必需品」に絞られていることが理解できる。
 さらに、商品が高額であればあるほど、マイナス幅が大きくなるという、実に納得がいく消費行動を、日本国民は取っているのだ。

 筆者は本連載などで、今回の日本の消費税増税について、「ユーロと同様に一種の社会実験である」と繰り返し語ってきた。
 デフレの国が消費税増税を断行すると、どうなるか。国民の支出を減らし、結果的に所得が減り、さらに支出を絞り込む悪循環、つまりは再デフレ化に突っ込むと増税前から予想し、何度も(というより、何百回も)警鐘を鳴らしてきたわけである。
 今のところ、予想通りの悪化となっている。正直、予想が当たっても全く嬉しくないのだが。

 クルーグマン教授は先のインタビューで、現在の安倍晋三政権について、
 「バブル崩壊から立ち直りかけていたところで、財政再建を旗印に掲げ、消費税増税に舵を切った'90年代の政権、つまりは、橋本龍太郎政権と同じことをやっている」
 と、実に真っ当なことを言っている。

 また、今後の日本経済が「惨状」に突っ込むことを防ぐために、クルーグマン教授は、
●増税した消費税を一時的にカット(=減税)する
●財政面、金融面の追加的刺激策をとる
 の2つを提言している。

 筆者は、安倍政権の今回の「失政」を受け、
 「消費税の再増税の凍結」
 「緊急経済対策」
 この2つを繰り返し訴えている。もちろん、消費税を5%に戻しても(あるいは、いっそ0%にしても)一向に差し支えがない。というより、むしろそちらの方が望ましい。

 単に、再増税凍結と減税では、必要な政治的パワーが違ってくるため、「景気回復」を増税の条件とした附則18条もあるわけだから、
 「とりあえずの措置として、再増税の凍結」
 を、安倍政権が現段階で決断するべきと主張しているのだ。

 前記インタビューの後半で、クルーグマン教授は世界各国の経済問題、特に「中国経済の危機」についても語っている。
 筆者もしつこく取り上げ続けてきた、中国のバブル崩壊(及びその後の金融危機)は、疲労困憊の日本経済にとっては大きなリスクだ。
 今後、中国のバブル崩壊と金融危機が本格化した場合、恐らく財務省は現在、そして近未来の国民経済の大失速について、
 「消費税増税が原因ではない。中国危機が主因だ」
 と、前回の増税時と同じような言い訳レトリック(巧みな表現)を構築し、手下の御用学者たちに拡散させまくることになるだろう(前回はアジア通貨危機のせいにされた)。
 今後の展開がどうなるかは、たぶんに政治的な問題であるため、現段階では予測不可能だ。
 とはいえ、現在の不況について「消費税増税が原因だった」という認識を国民が共有することで、未来を少しでも良い方向に変えることができるのではないかと考えているのである。

 現実の日本の官僚、政治家はといえば、相変わらず結論(増税)ありきで、奇想天外な増税レトリックを編み出すことに余念がない。
 例えば、黒田東彦日銀総裁は、9月16日の講演で、
 「消費増税が財政や社会保障制度の持続性に対する信認を高め、家計の支出行動に対するマイナスの影響をある程度減殺する力も働く」
 と、語った。

 どこの世界に、消費の際にいちいち「政府の財政」や「社会保障制度」を気にする国民がいるというのだろうか。
 現在の日本国民は、単に物価が上がる中、所得が十分ではない、つまりは「実質賃金」が低下しているからこそ、支出を手控えているに過ぎない。家計の支出を増やしたいならば、「実質賃金」の上昇以外に方法はない。
 財政や社会保障がどうであろうと、国民は働いて稼ぎ出す所得が「十分」であり、さらに安定的に所得を稼ぐことが可能と判断すれば、消費や投資を増やすのだ。

 やるべきことは、所得(=需要)の拡大であるにもかかわらず、わざわざ所得を減らす消費税増税を断行し、さらに「増税で信任が高まり家計が支出を増やす」などと意味不明なことを言ってのける。
 もはや、政治家や官僚に任せておける時代は終わった。自らの所得を増やし、貧困化を回避したいならば、国民一人一人が声を上げなければならない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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